なるようになる夏と旅 Part2〜徳島・大歩危の宿、ラテンな人々

akk2011-08-14

とにかく漆黒の道路をひた走り、閉まった道の駅に着く。
いまもう大歩危小歩危の渓谷沿いに走っていると言うけれど、真っ暗でなにも見えない。
車を降りると、水の流れるサーサーした音の響き、圧倒的な虫の声。
道の駅に照らされて、渓谷の壁がうっすら見えて、旅のぞわっとくる瞬間がおとずれた。
なぜだかわからないけれど今わたしはここにおります、という現在地だけがリアルで
わたしのIDがすべて取り外された状態。
本質にもどる、という行為は田舎へ行けば行くほど、強制送還のように有無をいわさず行われる。


あわただしく別の車に乗りかえる。今夜の宿の車。
仕事をやめてこの春から小さな民宿をはじめたという宿のご主人は、元気で豪快でパキパキしている。
車はどんどん山を登り登って、ほとんどてっぺんに到着する。あれが大歩危の駅、とさすのは
もうずいぶん遠景になった光。
夜だからなんだかさっぱり見えないけれど、そうとうな絶景だとひとめでわかる高台だった。


宿は宿というか、だれかの実家に泊まらせてもらうような広い二世帯住宅のような邸宅で
こういう宿に泊まるのは初めてだったから、とてもおもしろく思った。
無計画で無謀だった大歩危小歩危・かずら橋見物も、ご主人とおかみさんがバスの時刻表片手に
あっという間にしっかりしたプランを組んでくれて、とても助かった。
開いた宿帳には、まだ数ヶ月だというのにたくさんのお客さんの名前やメッセージが書かれていて
外国人の名前もいくつもあった。
居間でそんなふうにお話をして、お風呂も、部屋も、誰かのきれいな実家みたい。
Kさんはのちのち民宿をひらきたい、といっていたけれど、ああこういう感じなら出来るな〜と
とてもうなづいてしまった。


わたしが知ってる民宿というのは、仲居さんがいっぱいいて、なんとかの間がいろいろあるところか
ざこ寝みたいな大雑把なところでも、なにかと温泉やらぱりっとした浴衣やシーツやらがあって…
そういうのしか知らなかったし、いったい何人で経営してるのかも考えたことがなかったんだな。
旅のプランについての相談も、いつもカウンター越しだったり
はたらくのは雇われているホテルマン、とくに出てこない経営者…あたたかい民宿だったら、かれらは
生まれついてのずっとここで宿を営む人々なのだと、たぶんわたしはそんな風にしか捉えてなかった。
思いがけずこんな風に「おじゃましまーす」の感覚で泊まることになり、そのご夫婦の暮らしぶりや
お庭の農園、手作りのオープンチェアやテーブル、軒先の洗濯物などを見ると、あらためて
どこでなにをして生きていくか、という居心地良い生活への眺望はそう遠景ではないんだ、と元気に気付く。


ゆっくりお風呂に入って、窓を開けて虫の音の洪水のなか眠りにつき、目覚めたら朝、あつい。
ふとみると、窓の外にお墓があった。かれらの名前のお墓。だからまだ誰も入っていない。
大歩危の山の暮らしを愛していて、眼下にうつくしい渓谷を見渡す場所にお墓をつくり、
他界してもここに心地よく居たいんだろうと、そう思える土地で生きることができるのはとても幸せだと思う。
外に出ると、それはそれは大変な絶景、珈琲とパンをいただいて、駅まで送ってもらうあいだに
見せたいものがあるといって、山のなかに点在する妖怪の彫り物をいくつも回ってくれた。
ここはたとえば遠野ぐらいの大田舎なのだ、当然同じようにそういった霊的存在の昔話が多くあって
それが、この土地らしいなと思うのは「妖怪」という愛嬌あるおばけの存在としているところ。
宿のご主人は、さらに近所の寄り合い所のようなマーケットに立ち寄り、その女主人ともお話をしたけれど
とにかく、ここの人たちの気質はからっとしていて、なんていうかラテン系の勝手気ままなところがある。
勝手なのだけど、とにかく人なつこくてカモン!という感じなのだ。
(それはKさんのもっとも魅力的な、東京などではともすると翳ってしまう気質とほぼ同じだ。)
これは外国人があたりまえに多く出入りしてるとか、気候とか、ものすごい渓谷の眺めなんかに由来するのかな?
バスに乗ってても、なんだか忘れたけれどおじいさんがきゃっきゃと声をかけてきて、居合わせた老人たちがどっと笑う
とか、そんなちょこっとしたふれあいでも、人なつこさ、されどべたつかない自立ぶりを感じる。

さて、旅の記録なのに写真がないのはなんだか間抜けなので、きょうはかずら橋まで。
かずら橋はものすごい頑丈なロープで出来たつり橋。足場は木で、すきまが少しずつあるからちょっとこわい。
まるでアスレチックみたい。つり橋の下には渓谷の浅瀬があって、降りて水遊びができる!
足元ばかりみているとほんとに足がすくんでしまうけれど、はやく水遊びがしたくてたまらないからガッツで橋を渡り
川の水に入って散歩した。おどろくほど冷たくて透きとおった、真夏の川の水!

なるようになれ夏の旅。
明日は大歩危のうつくしさを、写真日記で。