残暑お見舞い〜夏休み課題図書

8月31日、こどもの夏休み最終日。
きょうは、この夏に読んだ本のお話です。
昨日の日記で書いたように『かるい胸キュン残暑』を迎えている私ですが
音楽もそうなら本もまた、シンクロするもので・・・いま読んでいるのは恩田陸の「夜のピクニック
青春の甘酸っぱさの中に、ひやっと異様な『白』が肌に触れてくる感じ、そんな恩田節がこの本にも
現れ始めてきたところ。
恩田陸の小説は「ユージニア」が一番好きなんだけど、あれも猛暑の夏の蜻蛉のような物語だった。
ピントがぼけてゆく日差しに、凍った白が刺してくる。強烈に夏だね・・・。


まずはついに、この本を読んだ。

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)

以前書いた、映画「カポーティ」を観たときの日記を読んで、ニヤリと私に貸してくれたTちゃん、
それから一歩違いで貸すつもりでいてくれたKさん、ありがとう。ていうか何でみんなこれ手元にあるの・・・すごい。
カポーティ」を見たから、この本を読むのは相当な覚悟をもって・・・とかなり厳戒態勢で読み始めたのだけど
単純に、物凄く面白くて引きずり込まれて、夢中になって読んでしまった。
ドキュメンタリーを物語とする小説のスタイル、カポーティがうそ偽り無く事実を見つめるやりかたが
徹底した独特さで行われている。
『事件』に関わる人物(通りすがりのガソリンスタンドの店員ですらも)全員の人と成り、性格や価値観といった
内面を見つめて、もはやその人になってしまったようにして『事件』を表現しているの。
中央にいる毒グモから派生する、無数のクモの巣のような小説。
『事件』はなんにしろ、少しずつの偶然のルーレットが積み重なって現れた毒グモだ。
悪人、善人、どちらもどうなんだ、もともと居ないし居る。
悪人、が「人間の罪深さ」で、善人、が「人はみな神の子である」で、日々どう転んで・・・
どちらかが明るみに出る、それが事件なら責められる、親切なら愛される、どうして
私はただ途方に暮れて、どうして全員が善きようにいられないんだ、ってことだけをむなしく思うだけで
歪みなんて消えちまえ、と思ったって、ディックとペリーは絞首台から堕ちてしまった。
世界は行きかう無数の魂の交差点だよ。一瞬のすれ違い、衝突、渋滞と事故。
この小説はウッディアレンが笑いながらやっていることと同じことを、薄暗闇の悲しみだらけの心で表現してる。
カポーティは泣きながら書いている。
「冷血」は誰のことだって、「カポーティ」でそのやりとりがあったの。犯人とカポーティのせりふ。
読みながら、タイトルだけじゃなくどこかに「冷血」という言葉が出てくると確信していた。
そしてついに出てきたとき、ああやっぱり、とこの小説の完璧さを思い知らされた。
ドラマチックな小説ではない。そこらへんに転がる現実の一片である『事件』を淡々と描き、そんな俯瞰の目線でありながら
俯瞰された人物の心の中に入り込んで語らせている。凄い小説だった。感情移入して何度も泣いた。


「冷血」の余韻が大きく残るなか、多忙のピークを迎え始めて、ぐちゃぐちゃになりそうな嵐の前の精神状態だったので
雨宿りのため、宮沢賢治を発動。賢治短編〜詩集を経て、まっすぐこちらへ辿りつきました↓
小川未明童話集 (新潮文庫)

小川未明童話集 (新潮文庫)

日本ではじめての童話作家小川未明です。たぶん稲垣足穂ファンはそうとうな胸キュンを起こすとおもいます。
素晴らしい。本当に素晴らしい。美しい!そして容赦ない!
独特な森羅万象ファンタジーです。こんなに凄いファンタジスタがとっくの昔に存在していたとは・・・。
賢治から流れた私の直感もぎょっとするけど、とーても近いです、自然観、倫理観、幻想世界。何よりも日本の風土。
それが根底になけりゃ、これらのマジックは生まれない。賢治・足穂・未明で日本の魔術師御三家確定です!
ちなみに小川未明の童話には、昨日書いたDE DE MOUSEが実によく合います。これまた不思議なリンクでした。
ステッセルのピアノ (文春文庫)

ステッセルのピアノ (文春文庫)

そのまま金沢へ、遠軽へ、ロシア、中国へ・・・
五木さんの雑記風ドキュメント小説「ステッセルのピアノ」面白かった!
日露戦争で活躍したロシアのステッセル将軍のピアノが、日本各地にあるんだって、そのピアノと歴史と伝承を追って
私的な思い出も交差しながら描かれる旅の物語。
「傷ついた人ほど、美しい物語を必要とするのです」
というロシアのおばあさんの言葉を読んだとき、世界が止まったような感覚がした。
きっと五木さんはそうやって物語を書いている。
私のつくる原動力もそこにあり続けるんだろうと思う。


では最後に、猛烈な忙しさのなかで旅情を抱くべく求めた小さな本、ぐっとお気楽に・・・
至福の旅セラピー 五感が満たされ、あなたが癒される、スピリチュアルなヒント

至福の旅セラピー 五感が満たされ、あなたが癒される、スピリチュアルなヒント

大袈裟なサブタイトルだけど、リラックスしてお風呂に入るようなやさしい、正しい絵本よ。
このごろは、旅がセラピーになる、という考えかたが浸透しつつあるんだって。
カラーセラピストが書いているんだけど、旅先で出会う色の精神的効果や、音、匂いといった
五感に与えるセラピー効果のたのしみについて描かれています。
上品でセレブな旅じゃなくて、等身大で心を潤わせる旅。
私の夏休みはまだ先だけど、ゆっくりしたいなぁ・・・。
と切ないつぶやきで今夜はおしまい。