ウェザー・レポート
東京の報告
台風が近づいてきました。暴風雨が壁の向こうでうなっています。
阿佐ヶ谷は風が強い街です。だから今夜は外、猛烈な音を立てています。
実家の母から電話がありました。同じ東京でも私の街ほどひどくないようです。
外の猫はどうしているか、と尋ねたら、みんなうちの車の下に隠れてじっとしている。
でも彼らは、母が家の中に入れようとしても、決して入ろうとしないんですって
家の中で温んでいる猫たちは、過敏に走り回っている、興奮状態で
阿佐ヶ谷の部屋は一階にあるから、一人暮らししてから初めて、床下浸水の心配をしています。
うちの近くには、以前大氾濫を起こした川があり、その時のニュース映像を今朝見かけた。
思いっきり、近所の街並が映っていました。
庭に生えている育ちきった雑草が、雨風に打たれてしなっています。
草花は台風が去れば、またすっくと立ち上がるのでしょうか、また成長するために寿命まで。
庭には、去年青森で買ってきた『金魚ねぷた』がぶら下がって居ます。
中には電球が入っていて光るから、雨が降ると部屋の中に避難させていた。
でも七夕まつりの出店で、大きな水槽からすくわれる金魚をみかけてから
あの後雨が降っても、『金魚ねぷた』の雨しのぎをやめてしまった。雨の日は泳ぎたいんじゃないか。
私が眠っている間、庭の景色を見ない間『金魚ねぷた』は雨で泳いでる。
台風や大雨のたびによぎるのが、水槽が逆転しているような感覚。
普段は四角い箱に収められた水が、暴風で倒れて、立場が逆転してしまう。
私の部屋が四角い容器になり、その外が水の世界、それは不便だけれど、奇妙に居心地がよく温もる。
"まるで魚になった気分だよ、まるで動かない魚"
今また物語の続きを書きはじめて、台風が近づいているなんて知らないで
何年も引きこもったままのバレリーナのお話を書いてた。
彼女の部屋は異様で、全ての窓に水の装置をつけていて、いつも窓に水が流れている、窓がゆがんで波打ってる、
水の世界のユートピアに潜る、まるで動かない魚。
水槽の中は沈黙だ。
そのガラスが割れるとき、バレリーナは死ぬのか、動き始めるのか、それをじっとかんがえている
私も動かない魚だね、今夜はね。
世界全体のハッピーエンドとはなにか、フィリップグラスやライヒのミニマル音楽の旋律の一小節を、
全体を目指してすばらしく奏でるにはどうしたらいいか・・・
いらついたり、表情が硬くて心配な人が居る、私は『そんな顔』を見てしまったときに無性に物語を書きたくなる。
今までそれは私自身の現実逃避だと捉えていたけれど、そうじゃなくて
『物語』は読むその人に語りかける「まったく関係のない話の究極」だと思うからだ、と気がついた。
あなたの毒にはまったく関係ない話によって解毒ができないか、もしそれが非常に多くのひとにも効く特効薬になったら
それはノーベル賞も与えられるわけだ。そういう意味じゃガルシア=マルケスは究極の究極だね・・・マジック=リアル。
目指すよ。
今夜幾つの部屋でフィッシュマンズの「ウェザー・レポート」が流れているでしょうか。
私は、これからゆっくり聴こうと思う。
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