Key Free:都市のイデア

なんなんだ、この、街との一体感は!
ここ数日、calmの新譜「Key Free」を聴きながら、街を歩いていた。
銀座・汐留・表参道・渋谷・神谷町・・・
どこを歩いていても、街の風景と音楽が繋がっているように感じる。
例えば、素晴らしい音楽にとりつかれた時の一体感とは全然違う種類のもの。
『私と音楽』じゃなくて、『都市と音楽』が一つになる。
この感じは何だろう?・・・ずっと考えていて、今日思い当たった。
この音が都市のイデアを浮かび上がらせているようなのだ。


また日野啓三の話。
日野さんがよく使う表現で、都市がむきだしになる、という言葉がある。
都市が出来上がる前の、荒地だった埋立地13号『台場』や東雲、青海のあたり。
日野さんの代表的な『東京の都市』といえば、ここと、住んでいた下北沢だ。
埋立地はよく取り上げられていて、そもそも日野さんの小説に出会ったのも
そこを題材にした『夢の島』を読んでからだった。


小学生のころ『船の科学館』が大好きで、何度も車で行くうち、その辺りの荒涼と
した風景に、なぜかものすごく惹かれていった。
壊れた車や冷蔵庫が捨てられて、所々で風化している土地。
乾いた土と雑草と、クラゲだらけの海。あちこちに散らばってる重機は、
動いているのかもよくわからない。
何も無い荒れた土地は、十数年後にはベイサイド・ドリームタウンになっていた。


「Key Free」を聴いてて、華やかに着飾った台場の衣の下にはあの『埋立地』が
あるってことを思い出した。
どの街にもその、むきだしの土の姿があり、
今立ち並ぶ街の風景は人々のイリュージョンの結果だとする。
都市はそれを喜んで身にまとっているかもしれないし、
他の何か違うものになりたいかもしれない。
人と同じように、都市が漠然としたイデアを持っているとしたら。
calmの音楽は、それをふんわりと見せてくれたように感じたんだ。
いま歩いている舗道が、ミュージカルみたいに歌いだす。
その上を私も歌いながら歩く。
単純に例えればそういうことで、そういう、いつも感じ取っていない
『むきだしの都市から聴こえる歌』が聞こえて、不思議だけれど本当に
美しい、と思う。


家に帰ってなんとなく、ロクにみてなかったCDジャケットを見たら
くっきり美しい花の後ろに、ほわっと都市が見えているという装丁だった。
さらに!中央にはレインボーブリッジのような(??)橋が架かっているのね。
アーチスト記事とかあんまり読まないから、その真意は知らないけど、
私は勝手にそう思うことにする、イエスだと。
勝手?いいじゃんブログなんだからさ!


今、このCDを持って20年前の台場にタイムトラベルしたら
きっと涙が出るほど素晴らしい体験が出来るだろうな〜 と思う。
もしもあなたがこのCDを持っていて、部屋でしか聴いたことが無かったら
今すぐ、MDでもipodでもカセットでも何でもいい、音と一緒に街へ出てみよう!


Key Free

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