エルミタージュ幻想、時間旅行

曇天の休日。こんな日にふさわしすぎる映画を観てきました。
アレクサンドル・ソクーロフ監督の「エルミタージュ幻想
やっと観ました。今になって上映してくれたのはパルテノン多摩
2時間超のロングドライブも、曇り空を脳にじっくり染み込ませる
前ふりのように感じてしまった。車で行って良かったな〜。


曇り空とこの作品が結びつくなんて、観る前は全然思いつかなかった。
だって「エルミタージュ幻想」の宣伝や記事を見れば、
全編にわたり、エルミタージュ美術館で撮影した豪華絢爛な映像美とか
90分ワンカット撮影!という驚異的な試み、ロマノフ王朝の舞踏会、
壮大な歴史絵巻・・・といった、華美さを賞賛するものばかり。
それだけだと外側のことばかりで、ソクーロフ的なものが全然感じられない・・
どうなってんだろう。普通の時代劇なのか?作品というよりは「仕事」なの?


ただ一つだけ信じられそうなコメントがあって、それは黒澤清監督の感想。
「ヨーロッパの亡霊につれ回されて、私はなにかとんでもない長旅をしてしまったようだ。5年か10年か、いやもっとそれ以上の。本当にこれは90分の映画なのか!? ・・・壮大なまやかしに引っかかったらしい。」
清を信じて見に行った。いやいや、まさにその通りでした。
この作品に華麗なロマンを求めたら、やけどします。いや、しもやけかな?


ワンカットで90分の撮影をした、というのはただの技術的な実験じゃなく。
これはワンカットでやるからこそ、正確に表現出来た物語なのでした。
幻想、時間旅行・・。歴史ある場所を訪れたとき、200年前の人がここで笑って、
悩んで、生きていたことに思いを馳せたりするものです。
かつては宮殿だった巨大な美術館で、ソクーロフがやったことは
90分の間に、200年のタイムトラベルをした『私』の目が見たものを映像にした
旅行記だったんですね。カットしないことで、見て、感じた全てを伝えたい。
それはロマン溢れる悠久の旅ではなく、どこかセンチメンタルな人生の旅、のよう
な感覚でした。そしてワンカットの終着点は・・・なんか涙が出てしまいました。
この映画はとてもいい映画です。でもエンターテイメントではないです。
ソクーロフの作品を見る、という気持ちで観てほしい作品だと思います。


ロシアには、偉大なるタルコフスキーがいます。時間と空間を溶解させる監督。
ソクーロフもまた、時間を溶かす映像を創ります。でも体感状態はまったく違う。
例えるならタルコフスキー無重力ソクーロフは熱病のよう。
だけどこの作品は、両者の中間に浮遊しているような感じがしました。
ロシアの重厚でひんやりした空気が、そうさせるのかな。曇天。


ところで最後のクレジットで、何とかサンクスにスコセッシの名前があった!
な、なんで???何をしたんだろう、スコセッシ・・・。

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