クイーン来日中。

クイーンがポール・ロジャースという人を連れて来日するって
ずいぶん前から話題になっていたけれど。
家では一言も、その話が出なかった。なぜか。
私は不思議でならなかった。だって・・・
うちの母親はその昔、クイーンの熱狂的なファンだったからだ。


タイムトラベルしましょう。時代は20数年前へさかのぼります。


この日記でも何度か書いたけど、私の父親は競輪選手だった。
母親はスポーツ選手の嫁らしく、二人三脚で彼を支えながら生きていた。
そんな日々は長く続かず、彼は唐突に亡くなった。
最愛の人をなくしてしまった彼女はただ無心で、子供を育てた。


ある日、彼女は自転車のベルの音を聴いた。
反射的に顔を上げると、テレビからたたみかけるように音楽が流れた。
Bicycle! Bicycle! Bicycle!
I want to ride my Bicycle!I want to ride my Bike!
センチメンタルからかけ離れた珍しい曲だったから、きっと良かったんだ。
彼女はたとえばこんな時に、切ない愛のバラードなんかを聴いて泣く人じゃない。
そしてその音楽の正体は・・・
クイーンの「自転車レース」。


それから、もの凄い勢いで彼女は『クイーン』に夢中になった。
お給料が入るたびに一枚ずつレコードを買って、ポスターを部屋中に貼り
クイーンが出ている雑誌を読むうちに、色々な音楽に興味を持ちはじめた。
音楽雑誌のレビューや『ベストヒットUSA』を情報源に
沢山のいい音楽と出会った。
そして子供に物心がつき始めると、彼女はだいじな箱を開いた。
「お父さんのレコード、一緒に聴こうね〜」
子供はビートルズに出会い、かなり気に入っていたのは内緒の話。


母親は私を親戚にあずけて、クイーンの西武球場ライブを見に行った。
フレディの熱烈なファンで、
「フレディ素敵〜素敵〜」と騒ぐ母を見て、私は素敵かもと思っても
「ヒゲオジサン キモチワルイヨ〜」といって、からかっていた。
もういいか悪いか判断つかない位、カーステレオで繰り返し聞かされた
クイーンの曲。カット割を覚えるくらい見せられたライブビデオ。
もしかして、私の人生で一番長い時間聴いてる音楽記録は未だに
クイーンかもしれない。
時が過ぎて、ヒゲオジサンは星になってしまった。


さあ、現代へ戻ります。
私はきょう、ついに話を切り出した。
「お母さん、今週末休みとれそうなんだけど・・・いやまだわかんないけど・・・
 クイーンのライブ、見に行かない?」
母は言った。「嫌だ!」
・・・な、なんでこうなる!?
私は粘った。まだチケット取れるよとか、モジャオジサン(ブライアンメイね)
とか来てるんだよ、ポールロジャースって人、歌うまいらしいよ・・・。
「だってフレディがいないじゃない。
 お母さんあれは、別のバンドだと思うの。あの太った人に歌われてもねえ。
 フレディの声じゃないしイメージ崩れそうで・・・やだよ〜!」
けんもほろろとは、まさにこのこと。
恥ずかしいけどついに言った。娘としては決めゼリフだ。
「私が見たいの!お母さんと!」
すると「行ってきなよ。」とあっさり返された。
ここで私は知ったのだ、いかに彼女がフレディを愛していたかを。
ってことなのかな?


娘は時々クイーンを耳にすると、あの頃強制的に聴かされていた時と比べてか
そのときからそう感じていてか、とても感動して動けなくなることがある。
子の心親知らず。こっちは「自転車レース」を、一緒に聴きたかったのにさ。
笑っちゃうけどちょっとがっかりな私に、母はダメ押しで一言
「それより週末休みなら、衣替えしに来なさいよ。もう寒いんだから」
わかったよ、行くよ、衣替えに・・・。

Jazz

Jazz

クイーンは良い曲が本当に多いけど↑「Don't Stop Me Now」が一番好きです。
そういえば、ポールロジャースもヒゲオジサンだ。
行く人は、きっといいライブになるだろうから、楽しんできてね!