Today#40 誰かの匂い

きのう書いた「シティ・ライフ」の続きのように。
きょうは対極にあるミニマルなもの、匂い をめぐるお話。


街には色んな匂いが流れている。
匂いって音と違って、世界に溢れて大きなグルーブを構築することは決してない。
ごく一部の空間の空気を彩る、目に見えない、深くて濃密なもの。
誰かとすれ違ったり、何かの前を通っただけで、匂いはうわっと世界を包み込んでくる。
香水をつけても、すぐに跡形もなく飛んじゃう無機質体質の私には、流れてくる匂いはとてもおもしろい。
とくに人の匂い。


私は古着をよく買う。オークションで見知らぬ人にモノを譲ってもらうこともあるし、
小さいからって友人のお古をいただく機会も多い。
それで誰かのものだった服やもの、CDなんかにも、はっきりした匂いが残ってるときがたまにある。
きょうはそういう服を着てた。一日中、誰かの匂いと一緒だった。
なんと帰って服を脱いでからも、その匂いはほとんど薄れていなかった。
私自身の匂いにも何にも影響されずに。すごい、すごい!
この服は、半年前にフリーマーケットに出た時、お隣さんにもらったもの。
顔は忘れちゃったな、雰囲気はおぼろげに残ってる。
それ以来ずっとしまったままだったけど、今日たまたま出して着てみた。
半年前の匂いがここまでクリアに温存されているとは、それだけで感動的だな〜と思うんだけどね、
その匂いのおかげで、きょうは疲労感も感じずに乗り切れたのがまた感動的だ。


きょうは撮影だった。
昔は撮影や編集なんかで心やからだがヘビイな時は、すごい勢いで香水をつけたりしてた。
匂いすぎだと言われようが構わず。だって匂いで精神的に盛り上げたいんだもんね。と開き直ってよく笑われた。
さすがに今じゃ大人になって(?)そんなことする必要も無くなったけど、きょうの服の匂いは
そういった効きかたをしたなと思って。
この誰かさんに感謝したくても、誰かは誰かのままだ。
もしもこの服の持ち主だった人と街ですれ違ったら、まだ同じ匂いをさせているのかな?


古着屋の服に染み付いた匂いなんて、ほんとに、どこの国の誰の匂いかもわかんない。
私は5年前の誰かの匂いに、救われたりしているのかもしれないよね。
すごいね!