Today#91 或るスティル・ライフの風景

akk2006-05-20

きょうは車検で、東雲へ行ってきました。
当日返しでお願いしたから、完了まで4時間ほどの待ち時間が発生。。
東雲、時間つぶしの場所が皆無。一応駅があるのに、ここまで何もないとは珍しい。
そこで東京湾沿いの土地、私の選択肢は『とりあえず歩く』 散歩です、散歩。
ひとまず新木場方面へ向かって歩いていると、あっ!!!!!
12年前にロケした場所にでてしまった。
全然姿を変えているけれど、確かにここで撮影した。なんで分かるんだろう?
でもはっきり覚えてる。ここだった。思い出した。あの日のこと、その朝のこと、全部。


その土地は当時、なんにもないただの空き地だった。
古いタイヤや腐りかけたバイクが捨ててあった、埋立地特有の無法地帯。
人がいない、いつまで待っても誰も来ない、忘れられた場所のようにざらざらの土地なのに
休日の昼間に行ったら釣り人が数人いて、家族連れが遊んでいて驚いた。
この人達、どこからこの場所の情報を得て、集まってるんだろう?
近くには大きい道路もあって、アクセスはしやすいかもね、でもここで遊ぶなんて。
私みたいに、或る風景を探してまわる物好きでもなきゃ、こんな所に来るわけがないって
思い込んでいたんだ。それで台本を書いた。


前後不覚のぼろぼろの男が、夜中にこの土地にたどり着いて
誰もいないここで、腐った廃車と共に朽ち果てようと決心して眠るんだけど
朝、目が覚めたら人がいっぱいいる。
穏やかな午後、誰も自分を気にも留めていないけれど、ここで昨晩死ぬつもりだったなんて。
ばかげてる。彼はつい笑っちゃって、人生なんてこんなもの!
もう世界とは縁を切るはずだったのに、人のいるほうへ歩いていき、ここはどこですか?
それから色んなことを話しに行くっていうお話。


散歩している間にプロットや映像を細部まで思い出して、稚拙に入り組んでて分かりづらいな
とか、振り返るとダメだしだらけの作品(学生時代だ、当たり前だね)だったけれど
12年経って、やっと今日気がついたことがあって、だからこんなことを書いている。
当時その少し前、池澤夏樹が「スティル・ライフ」でデビューした。
私はこの本の冒頭を読んで、目からうろこが落ちて、世界観がすっかり変わってしまった。
だってこう言うんだよ、
 世界はきみのためにあると思ってはいけない。 
続きは本で読んでください。この後がすごいから、ぜひ読んで。


上に書いた稚拙なお話は、結局「スティル・ライフ」を無意識に、自分なりにやっちゃったんだ
と分かったんだ。きょう。 
スティル・ライフ」は頭の中で、勝手に映像化してるほど好きな小説です。
だからその物語の影響が、こんな風にスピリットだけ自分の心に染み付いて、
全く別のお話を書いたつもりが同じ核だったなんて、まさか、思いもよらないことだった。
偶然出会ったロケ地は、新しい工場が出来ていて、面影もなにもない。
あのフィルムまだ残ってるかな?
たまに、昔撮ったものを無性に再構築したくなる。時が経って、その正体が見えてしまうとね。

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)