フジロックフェスティバル06/A面 すばらしくてNice Choice

すばらしくNICE CHOICEな瞬間、
そっと運命に出会い 運命に笑う
そんな時はいつでも暑かったんだ。
まるで溶けそうなトローントローンの天気だったよ!


日曜日、フジロックフェスティバルに行ってきた。
私が今年、一番観たかったのはふたつ。
きょうはA面、フィッシュマンズと10年の旅について。


その4日前、ロシアンルーレットのように親友に電話した。
この人と一緒に行くべきじゃないかという予感は、ラジオでフィッシュマンズが流れて
今年のフジロックで、ゲストボーカルを迎えてライブをするという話を聞いたときから
静かに始まっていた。ゲストの中に、さかなのポコペンさんの名前があったからだ。


私と彼女はさかなが大好きで、彼女はポコペンさんと丁度いい具合に通じあっていて、仲がよい。
そして私達はフィッシュマンズが大好き、でも一緒にライブを見たのはたった一回しかない。
でもその一回が、私達がそれぞれ、フィッシュマンズを深く愛することになったはじまりだ。
あの夜、あのライブを観ていなかったら、私達はもしかして今頃、フィッシュマンズの言葉に出会って
いなかったかもしれない。
そうしたら、どんな風になっていただろうね。きっと少しずつ変わる。石器時代にタイムトラベルした人間が、
その場に塵を落としたためにヒットラーが生まれなかった なんて具合に。


10年ほど前の或る夜、私達はペイヴメントというバンドのライブを観にいった。
そして、その前座で出たフィッシュマンズにおもいっきりやられてしまった。
その夜演奏したのは一曲。30分近くに渡る「LONG SEASON」だった。
あのときの感動は一生忘れない。なにが起きたのか分からないほどの、感動だった。
すごいね、すごかったね、しか言えなかった。
それから私達はそれぞれ、ほぼ同じように、フィッシュマンズを大切に聴きはじめた。
やってられない夜に鼻歌で歌ったり、その音楽から物語をつくったりしながら
それフィッシュマンズ的だねとうなずいたりした。
そのうちに起こった佐藤さんの出来事は、自分自身で受けとめた。
だまってただ現実と向き合うしかない。悲しいけれど、歌は残る。そう思うまで。
そうしてスピーカーの中でうたう彼に時々再会して、日々あるいている。


フジロック?いいねえ、日曜は暇だよ。
フィッシュマンズの話をすると、彼女は、ポコペンさんはとても緊張するだろうねといいながら、
「楽しみだね」いひひ、と笑った。
私は、ポコペンさん、どの曲歌うんだろう?ってことに興味深々だったけど
彼女にとってはそれは、それほど興味のないことのようだった。
もう観られないと思っていたフィッシュマンズが意外な形で、楽しめることがなにより面白いみたい。


会場は、始まるだいぶ前から人で溢れていて、暖かく、緊張していた。
みんなファンで、待っている。勝手きままなフジロックで、これだけ緊張感のある開演前はめずらしい。
クラムボンの郁子ちゃんやキセルUA、次々とゲストが登場しては、一曲歌って帰っていく。
とっても合っている。フィッシュマンズの歌世界が崩れることはひとつもなくて、
そのことにびっくりする。
そしてポコペンさんが、ちいさい体にいっぱいいっぱいのアコースティックギターを持って現れた。
見守る私達の前で、歌いだしたのは「SEASON」だった。
みんなにとっての特別な曲、あの歌を。あなたが歌うなんて、ポコペンさん!
あんまりに突然で、意外で、うわぁ・・・と声をあげて、頭がくらくらした。
 しんじられない。
 これは夢の中?
 出来すぎた映画のプロットみたいだ、10年前にきみと一緒に観た、長いシーズンを。
 何の因果か、いままた一緒にみている、ポコペンさんが歌ってる。
 「思い出すことはなんだい? くちずさむ歌はなんだい?」
 10年の運命の断片が、ジェットコースターライドみたいに高速で流れる。
 私はきみに話してないこと、いっぱいある。話すつもりで忘れたりしてたことが。おもしろい話がたくさん。


 きょうのあなたは少年みたいだ、ポコペンさん。 
 まるでこの歌そのものだ。


それからハナレグミの永積さんが出てきて、ナイトクルージングをうたった。
後で親友が言っていた、彼、舞台の袖ではじめからずーっと歌ってたんだよ。だからスタッフかと思ってた。
きっと大好きなんだね、フィッシュマンズが。
彼は本当に楽しそうに歌うから、気持ちよく宙に浮いているような曲が、驚くほどの大合唱になって
暑い日ざしが、光の粒になってきらきらと、雨のように降り注いでいるみたいだ。
みんなわらっている。
あんまり素晴らしい光景に、ないてしまった。ないている人は他にも所々にいて、動けなくなっている人だ。
私が肌で感じた限り、見渡す全員がそれほどの幸せで満たされていたとおもう。
だれもそんな白々しいこと言わないけど、佐藤さんがここにいるのかな、とおもっている。


いっしょに観られて本当に良かった。嬉しいよ、そう言いたいのに涙が邪魔をする、もどかしい。
涙がでるほど嬉しいのに、そのことが伝えられない。肝心なときにいつだって、言葉がだせなくなる、体の機能の大欠点だ。
嬉しいのかなんなのか、このときの感情を言葉に具現化するのはとても難しくて
そういう単語がないんだと思う、胸がつまって体温が上がり、体が制御できなくなるような感情の波。
彼女は私の名前をよんで、手をがっちりと握った。
いつその手が離れたか覚えてないんだけど、こういう時どうしていつも、人は手を握るんだろうと考えてた。
ライブよかったね。うんよかった それだけでいいや。


すばらしくてNICE CHOICEの冒頭の歌詞は、きょうのことを記した預言書みたいだな。
そう思ったけど言わなかった。あの夜から10年後の午後、運命に出会い、運命にわらう!

空中 ベスト・オブ・フィッシュマンズ

空中 ベスト・オブ・フィッシュマンズ