さよなら ナム・ジュン・パイク展@ワタリウム美術館

ナム・ジュン・パイクの回顧展へ行ってきました。
http://www.watarium.co.jp/exhibition/index.html


今年の初めに逝去のニュースを聞いた時、ええっ若いのにそんな…と咄嗟に思ったけれど
御歳は73歳、立派に往生していた年齢だった。
考えてみればフルクサスに普通に居た人だし、ビデオ・アートの創始者(発明者?)で
それ自体の歴史は浅いといったって、もう40年経っていることになる。


会場はワタリウム、キャパシティ的に『大回顧展』ってわけにはいかないけども
でも、凄く良かった。会場としては最高だったんじゃないかと思う。
作品とのバランス、展示の流れ、それからワタリウム独特の静かな空気、何もかも。
ドローイング、造形、インスタレーションと一通りの表現が見渡せるんだけど
まったくこの人ったら、どこまでもビデオバカなんだからと笑ってしまうほどの
『ビデオ』に対するどうしようもない愛を、全作品に感じる。
そしてビデオが、TVモニターから流れる映像っていうだけじゃなくて
彼の心の中で、例えば一人の女性が観音様になったり、母親やあばずれになったりするのと同じように
様々に変幻しては現れるんだろう。天才っていう一言じゃ済まないよ、あのビデオの面影の表現は。
ドローイングではカラーバーが基準(そのままじゃん(笑)でその上に文字や絵を描いている。
※プチ情報だけど、このシリーズって半分ぐらいは、佐野元春が所蔵してるんだよね!びっくり!
テレビの中身をすべて取り、その箱の中にキャンドルを立てている『キャンドルTV』
『ケージの森/森の啓示』は、森の中に大量のTVを置きまくってジョン・ケージ関連の映像を流す。
ヨーゼフ・ボイスをめぐる作品がたくさんある。どれも、物凄い作品だ。本当にぎょっとする表現!
更にビデオ・アート、ビデオ・インスタレーションとは此れなり、という必然性をさらっと
お見せしているライブカメラの作品群は、いま見たってまったく古くない。むしろPCに頼ってない分
偶然の芸術の面白さが温かく感じる。


パイクの作品、実は私は素材を先に見ていた。
学生時代に発売されたビデオで、SAT-ARTという映像集。まだ売ってるのかな?
私は出来心で、坂本龍一やピーターガブリエルが出ているからってだけで借りて見たんだけど
その映像のどぎつい色彩や、過剰なほどのエフェクトやノイズにちょっとびびった(笑)
80年代の異様にカラフルな、ショッキングカラーの印象そのものだった。
それらの映像が、今回の展覧会で普通に流れている。ああ、あれって素材だったんだ。
これが本来の、収まるべき姿なんだな…と、ぴったりくっついている作品群を見て納得しました。
このオブジェの中に居るから収まる、とか大量のモニターにこう配置されるから収まる…そんな感じに。
面白かったよ。頭が煮詰まったり、ちょっと気分転換したくなったら、遊びに行く感覚で観にいくと
いいと思います。10月9日までやってます。私もまた行こうと思っている。


ところでひとつ、墨絵のような風情のさっぱりしたドローイングがあって、そこに俳句のように
「おぼろ月夜とオンボロTV」って書いてあったの。日本語で。
なんかすごくハマッちゃった…。いいですねぇ。