ルソーの見た夢、ルソーに見る夢

きのうの夜、砂漠の夢をみた。
絵画のように静かな『月の砂漠』を歩いてて、遠くに光るテントがみえている。
エレンディラはあの中にいるらしい。と思いながら夜空の月をみあげた。
「星空はきれいだなぁ〜」と声にだしたのを覚えている。
朝目覚めて、ああなんだっけ、あの画家。あの人の絵みたいだったな。
ジプシーの女が砂漠で眠ってて、ライオンが傍にいる、あの絵…。


はい、正解はアンリ・ルソー
調べてたら出てきた、くらくらするようなタイトルの展覧会。
世田谷美術館で開催中の『ルソーの見た夢、ルソーに見る夢』展、みてきました。
http://www.setagayaartmuseum.or.jp/
もう、我ながらこの第六感の鋭さにびっくりだ。
それともどこか目の端で、無意識にこの展覧会のこと知ってたのかな?
とにかくそんな訳で、駆けつけました。世田谷美術館すっごく久し振りで、高校以来きてない。
なんか地方の県立美術館みたいな、独特の古い静かな落ち着き感、今すごくいいなと思う。
砧公園にあるんだよね。それがまたのんびりできて良い。駐車場めちゃくちゃ込んでたな。


ルソーの絵は子供のころ、とても怖かった。特にジプシーの女の絵は、ライオンの目が笑ってなくて
今にも女を食べそうで、すんごい怖かった。ついでに私の腕も食べられそうで。
ジャングルの中心で、蛇使いのように笛を吹いている裸の女性の絵も怖かった。
ファンタジーがまるで現実みたいに感じたから、子供はまた、笛女に食べられちゃうんじゃないかと悪夢をみる。
その場所に行ってしまうんだね。自分の部屋なのに、たかだか開いた本の中の絵なのに。
あるとき、どこかでルソーの絵をみかけた。
子供のころの怖い…というひやっとした感覚は死んでなかったけれど、また私の目は吸い込まれて
今度は、すごいなあ!とぎょっとした。それは唯一無比に美しい、それに魔法のようにおもしろい、
そうさマジック、リアリズム。ガボファンはルソー好きでしょ?(?)
やっとルソーの絵画を受け止める準備ができたようです。いざ世田谷。


この展覧会はルソーの絵画と、素朴派と呼ばれる彼の仲間たち、それにルソーの影響を受けた日本の美術
という柱で成っている。
物量的に、もっと!もっともっとルソー作品みせて!とルソー絵画群が終わったとき思ったけれど
後半、もの凄いことになってくるからお楽しみに!です。
ルソーのジャングルは本当に凄いね、それに、有名な巡査の肖像画。寸足らずのような男性の全身像。
この男性が死んでしまったとき、奥さんの悲しみを止めようと描いたっていうんだよ。
とぼけたような、かわいらしい顔。なんか全体的に浮世離れしている。それは男性が立っている風景のせいか。
不思議な重さと軽さがある曇り空と、遠近感がみょうなバランスの田舎道。
ルソーの絵は見つめれば見つめるほど、ふしぎなんだよ、なんだかね、なにもかも。
その空気に憑依した人が、展覧会を開くほど多くいるってわけ。
影響を受けた日本人コーナーはかなりのものです。
絵画だけじゃない、なんと途中から写真が出てくる。ルソーの絵画の10年後、1920年代のピンぼけた風景写真や
植田正治の写真…ルソーとの結びつきなんていう観点で見たことなかった。
当時の写真雑誌の表紙には、ルソーの『絵』が使われているんだ。
なんだろう、この結びつき…。不思議だよ。現実みたいなファンタジーだから?
最後に、現代美術のなかのルソーを集めた部屋がある。
影響というか完全にオマージュなのだけど、凄い!本当に面白い!現代美術好きは必ず見るべき!
笑っちゃうほど自由奔放なルソーLOVEぶりなんだけど、中でもぎょっとしたのが横尾忠則の連作。
例の、砂漠で眠るジプシー女とライオンの絵の『続き』が、鮮やかに絵になっていたんだよ。
血まみれのマンドリンと、転がる人骨と、口の周りが赤いライオンの絵。
ルソーの絵画のタッチを完コピして、毒あるシニカルな絵画に仕上げてる連作。有名なあの絵やこの絵が
こんな風に、悪夢になっちゃってる。
それは子供のころに、感じた恐怖そのものだ。私だけかと思ったら、横尾さんも同じ怖さを感じてたのね!


ところで神様、昨夜の夢は、この絵に巡り合わせるための夢だったの?
じゃあその前の、しあわせな夢はなんだい?
夢って、なぜ見るの?