Today#135 三島由紀夫の新恋愛講座

ヴィレッジバンガードでぶらぶらしていたら、目にとまった
三島由紀夫の「新恋愛講座」
どんなこと書いてるのかな、と興味本位でぺらぺらしてみたら…
『接吻したいという目的を、口で言うのは、ばかであります。』
って書いてあるー!この一行にやられて、なんかすっごい面白そうだな!と
うきうきで買ってきました。


三島さんのエッセイを集めた本なんだけど、出典元は「明星」や「女性自身」の連載なのです。
だからか小説の感覚とはちょっと違って、ライトで読みやすい。
そして予感どおり、むっちゃくちゃ面白い。というか、ずばっと核心を突いているのに
実にわかりやすいんです。
いい小説を書く人って、その人自身の生きる目線がイイんだなあ。
そんな単純なことを思ってしまいます。
恋愛講座的な文章って世の中に大量にあって、男心とか女心、ほんとかなー?って思うけど…
そっか、やっぱり男の人はみんな若いギャルに浮気か。あ、嫌われるようなこと思いっきりしちゃった。
なんてね、結局人それぞれでしょと思いつつ読んでも、ああいう文章の影響ってけっこう侮れなくて
変な固定概念にやられて自分が歪むのはばからしいと思っても、しつこく頭の隅に残ってたりする。
きっととても具体的過ぎるんだ、描き方が。それはそれで、生活レベルで参考書的な役割をするのかな。
しかし!三島先生の文章はちょっと違う。もちろんちょっと古い『現代』のお話だけど
今どきの、恋愛に関する文章と同じように軽く書いてるのに、比較にならないほど!もはや次元が違う。
普遍的でほんとうのことを、小芝居も交えてきっぱりお話しているのね。
そしてこの小芝居(ようするに口説き方例みたいなもの?)が、とびぬけてイカシてるのだ!
三島先生は軽〜くさらっと書いてるんだろうけど、これ凄い!言葉のセンスが物凄い!!!
あまりのことに、ちょこっと抜粋です。
まずは女性からプライドの高い男性へ、口説き方の一例。男性読者は覚悟せよ!


『あなたが退屈して、ちらっと横をみる時の目が好きだわ。ああいうとき、あなた何も見ていないのね。
 いつもは大人なのに、ああいうときだけ、あなたって一人ぼっちの少年みたい。
 …そうだわ。あなたを退屈させるに限るわ、って私その時思ったの。』


ひゃー!!!たまんないですね、この起承転結!たったこれだけのセリフで…うまい!
もういっちょ、度肝を抜かれたやついきます。
男性が浮気したんだけど、まるく収まった例(浮気がバレて成功した場合 って書いてある(笑)
長いので途中から。


男「だから、もうしないって言ってるんだ」
女「未来のことなんかわからなくてよ、あなたも、私も」
男「おい、今度はおどかすのか」
女「ううん、私、今まで安心しすぎてたの。未来まですっかり安心していたの。それがもう安心できないの。
  でも、そんなに私不幸になった訳ではないのよ。
  安心できないって思うと、なんだか、世の中がキラキラした硝子のカケラでいっぱいのような気がするの。
  でもこんな気持ちって、ちょっとステキじゃない。私、前より、あなたが好きになりそうで怖いのよ」


うわーなにこれどういうこと!?
最後の女性のセリフの巴投げぶりといったら、もう仰天ものです!素晴らしい!!!
こんなこと言われた男性はどうなんだろう?丸く収まるっていうかひっくり返るんじゃないの?
という謎は抑えられませんが、すごいでしょ?
私も恋人や旦那さんが浮気したら、これぐらいのこと言える人になりたいわ、と思いました。あはは。

新恋愛講座―三島由紀夫のエッセイ〈2〉 (ちくま文庫)

新恋愛講座―三島由紀夫のエッセイ〈2〉 (ちくま文庫)