山梨へつづく道路(国道20号線)

山梨へ行ってきました。
観光じゃないよ、ロケでもない。映画を観に行ったの。山梨出身の友人が撮った映画。
甲府の映画館で上映するってことで、ドライブがてら。スタッフみんなの顔も見たかった。
映画という媒体で伝えようと続けている、私は彼らに会うと心が洗われる。
私だっていつかは映画に戻りたいのだ。その為に今働いている。
心の底にそういう思いが消えないからだ、しなったアイデンティティがしゃんとする。
きっとあなたにもそんな友人がいるよね。そんな感じが今とても、特に必要だった。
また物語を書き始めたからかもしれない。
東京からだと1時間半ほど、あっという間だった。山梨って近いんだな。


その映画は『国道20号線』といって、山梨と東京を結ぶ大動脈・甲州街道を象徴に据えたお話。
国道沿いに並ぶのは、大型パチンコ店と消費者金融。この二つは必ずセットになっていて
消費者金融でパチンコ代を借りて、パチンコで儲けたら借金を返済できるようになっている。
じゃあパチンコで負けたら?負債がどんどん増えていく。日常のすぐ横に、ブラックホールが開いてる。
堕ちれば闇だ。ただ堕ちそうに見えないんだよ、あまりに普通にそこにあるから。
映画は、その日常の中にふらついているヤンキーの物語だった。


甲州街道にギラギラ輝いている、パチンコと消費者金融のネオンサイン。次々映る。こんなに沢山。
私はパチンコをしたことないし、興味も無いから、この事実に気がついていなかった。
だからびっくりした。いつも走っている甲州街道の郊外や、田舎の広い国道に
堂々と落とし穴が掘ってあるなんて。信じられないよ。これではどんな事件だって起きる。
今回、甲府で上映した時のアンケートの回答には、この日常が「生々し過ぎてしゃれにならない」
という内容のものが多くあったっていう。
つまりカネをとりまくブラックホールの淵にいる人は、マイノリティじゃない。
私のほうがよっぽどマイノリティなんだ、知らなかったよ、本当に。
監督の富田君は世界の歪みにとても敏感な人で、いつもそれを睨みつけている。映画で警告したり
気づかせようとしている。


自分自身も自主映画の内側にいたし、今も少しだけいる。だから多くの作品を見てきた。
友人だからって容赦しないよ、退屈なものは退屈で、面白いものはおもしろい。
自主映画はなぜ「走る」のか?なぜめたくそな悲劇や、誰もやらないほどバカバカシイことを
わざわざ、身銭切ってやるのか?
きっと自主映画で最多表現を誇るだろう「走る」ことは、やり場のない怒りや解放への希望であることが殆どで
つまりそれだけ、日常に明らかに歪みを感じている人が多くいる、ってことか、とふと思う。
その叫びは怒号かもしれないし、大きな笑い声かもしれない。どれも同じことだ。


リアルでしゃれにならないような作品は、今の日本映画界では殆ど撮らせてくんない。
その辺りは、やっぱり過激なドキュメントを放送できないTV業界と似たようなもので
各所にお伺いして、顔色うかがって、我慢するものはするっていう妙な駆け引きから逃げられない。
でも私は、この自主映画を観て、こういう衝撃やしゃれにならなさこそが映画だと思った。
路上の雑草に猛毒があることを、気づかされるのが映画だし
悲しくても楽しくても、死の直前でも日常風景は変わらないことを知るのが映画だ。
2時間、闇を照らす光をみつめて、映画館を出たときに心に刻まれている、
それは擬似体験じゃなくて『体験』だとおもっている。
その光の中の世界をみているのは、他ならぬあなたの目なんだから。
だから気に留まった映画はどんどん観るべきだ。
それが大作でも単館でも自主制作・配給でも、できれば映画館の光の中で。


そんな訳で『国道20号線』は実に面白い、やり切った映画だったので普通にお勧めしたいと思う。
東京上映(多分アップリ○ク)決まったらまたお知らせします。


制作チーム「空族」のHPはこちら→http://www.kuzoku.com