捨て身で叫ぶ、汚れなき魂のかがやき、U2

きょう、U2の来日公演を観てきました。
さいたまスーパーアリーナという巨大な会場で、なんとアリーナ席はオールスタンディング!
U2がこんなことするなんて、凄いよね。だからもう、今夜は純粋に楽しむつもりだった!
華麗な大型LEDセットがギラギラ輝き、U2は誰にも有無をいわせぬ完璧なライブを見せるだろう!
そう、そう、その通りさ!でもね、今夜観たライブはエンターテインメントを超えていた。
信じられないほど魂を揺さぶられてしまった。
会場は満員で、熱く、ほとんど全員がずっと大合唱していた。こんなに愛に満ちたライブは初めてだ。
みんな待ってたんだね。私だってそうだよ、もう8年も経つんだ、あの時私はまだ大学生だった。
私、ボノが涙を流しているのを見た。ボノの体から溢れ続ける愛も、この目で確かに見た。
U2の歌を聴いて、泣きそうになったことはあるかい?


「Faraway,so close!」
ヴィム・ヴェンダースが撮ったこの歌のビデオクリップで、U2は「ベルリン天使の詩」を再現した。
4人の天使達は静かに街を見守っている。街に転がる孤独や、世界のかなしみ、喜びや幸福…
彼らは最後にたまらず地上に飛び降りて、人間になった。
路上を歩いて笑う、ボノの純粋で無邪気な笑顔が忘れられない。
今夜のライブはその続きを観たようだったんだ。


天使は人間になり、4人で音楽をはじめた。
その音楽は世界じゅうの人々の耳に届き、人々の心の曇りや汚れを拭い去り、魂を素直にしたよ。
4人はそれでも少しでも多くの人に、直接愛を伝えたくて、語りかけたくてライブをした。
今夜は日本で。


「Sunday Bloody Sunday」が始まった時、そのドラムの強さに鳥肌が立った。
アイルランドのテロ闘争のきっかけになった、イギリス軍の虐殺事件についての歌。
ボノは衣装を変えて現れた。
星やピースが縫い付けられた古い皮ジャンを着て、頭にバンダナを巻きつけて
バンダナには『COEXIST』とマジックで書かれている。
この歌を、70年代の反戦家そのままの格好をして歌う、今もうはっきりと時代遅れだって笑う?


 今日のニュースを信じられない
 ああ、目を閉じて消し去れない
 いつまで、
 いつまでぼくらはこの歌を歌わなければならないんだろう?


30年経ってもラブ&ピースに満たされてはいないよ。彼らはまだ歌わなければならない、この歌を。
時代遅れの格好で歌うボノの背後で、スクリーンに何度も『COEXIST』と文字が出る。
それはそのうち、日本語に変換された。
『共存』の2文字が画面いっぱいに現れて、ボノは忘れ去られた2文字の日本語を背中にしょって、
捨て身で叫び続けた。


そして次の歌「Bullet the Blue Sky」が始まると、ボノは『共存』のバンダナで目隠しをして床にはいつくばり、
真っ赤な火薬を爆発させた。闇に燃え広がる赤い火薬と煙、恐ろしい炎の幻は戦争の幻覚だ。
その歌のあいだ、ボノはずっと目隠しをしたまま、マイクスタンドにしがみつくようにして叫んだ。
激しい攻撃は終わり、その場に静かな静かなピアノの音楽が流れた。
「ミス・サラエボ」という美しい歌が始まり、背後のスクリーンに再び大きく日本語が現れた。


それは『世界人権宣言』の全文章だったんだよ!
なんてことだろうね。
全ての人々の平等を定めた条約が流れる、あまりのことに私は動けなくなってしまった。
元天使が、神様の伝言を伝えたみたいでね。今夜日本の私達に、彼らの全身全霊の力をこめて。


戦争は終わり、会場が一気に明るく照らされた。
汚れなき魂のかがやきが、音になって世界を照らしはじめた。
「プライド(愛という名のもとに)」というその歌を、目隠しを取って歌うボノの顔をみたくて
スクリーンじゃなくてその顔を、私の目で見たくて、気がついたらもう駆け寄ってた。
だから私ははっきり言えるんだよ、あのときボノは泣いていた。
会場に満ちた大きな感動を受け取ったのと、皆に伝えるべき愛があまりに大きいんだって、そんな顔で。
時代遅れの反戦家の格好で、2万人が見つめる巨大なステージの上で、力の限り叫んで泣いている、
世界の悲しみを地の果てに捨てに行く、そんな覚悟と真摯さをもって歌うボノを見て、
全身が張り裂けそうなぐらいに感動してしまった。
きっとあなたも、あの場にいたらそう感じていたとおもう。あなたにも見せてあげたかった。
今、これを読んでいるあなたに!


そしてU2はあのビデオクリップのように、また路上へ戻った。
「Where the streets have no name」
太陽のように輝く歌を、青空へ投げると、元天使は2万人の先頭をきって駆けだした。


はじめてのiMIXが出来上がりました。すべては今夜の感動をなにか形にしておきたくて。
お届けするのは、この↑路上の歌から始まる物語の続き。私が今夜のU2を観て、感じた『物語』を
この選曲から、おぼろげにでも見出してくれたら嬉しいです。
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