アトミック・カフェ〜数学者のヒップホップ

マイケル・ムーアに多大な影響を与えた…という
原子爆弾をめぐるドキュメント映画「アトミック・カフェ」を観ました。

アトミック・カフェ [DVD]

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素材はすべて、ニュースフィルムやアメリ政府広報映画の映像。
第二次世界大戦、冷戦、ビキニ島を始めとする核実験…といったドキュメントのコラージュ。
この映画が凄いのは、追加ナレーションは一切無し、つまり元のフィルムに記録された音声を
そのまんま使って構成してるのね。
いわばこれ、ヒップホップですよ。手法だけじゃなくこの表現。
とんでもなく冷静でシニカルな、数学者のヒップホップ。
カットアップの魔法によって、パズルはかちりと組み合わさり、まったく別の絵が現れてしまった。


極主観的報道、歪んだ楽観主義のかたまり。
当時の『報道』に捉えられた現実の風景が、これでもかって流れる。
残酷なキノコ雲にのったナレーションは、どこまでもグローリアス、ヴィクトリーだと陽気に喜んで
まるで、悪魔がナレーションしているみたいだ。そう思えてぞっとした。
それは、当時は普通のニュースとして流れていたんだからね。


この映画は、とにかく構成力がもの凄い。
核実験レポートが始まる中盤から、アメリカ国民の抱く不安が少しずつ現れてくる。
不安を払拭するために、報道はなんの根拠もない「心配ない」を連発したと思えば
子供たちに、原爆が落ちたらどうする?と対処法をアニメ入りで教育しようとする。
原爆恐怖症に陥った人、をコメディのネタにして笑おうとし、
笑えない現実が、妙な発明品をつぎつぎと生み出してしまう。
アメリカは躁鬱状態に陥っている。そんな風に、みえてしまう。
これはすべて政府による報道フィルムだ。


マイケル・ムーアはこの映画の監督から、映画の作り方を教わったっていう。
ボウリング・フォー・コロンバイン」でビートルズの「Happiness is a warm gun」が流れる、
あのセンスの源がこの映画にはある。
ただ皮肉ってことじゃなく、ハピネスは何だい?
マイケル・ムーアが走り回るように、編集機の前でカット・イン・アウトしている
恐ろしく本気の焔がみえるんだよ。
それがきっと、彼らのライムなんだ。