ルイス・カーンを探して

建築家ルイス・カーンをめぐるドキュメント映画
「マイ・アーキテクト〜ルイス・カーンを探して」を観ました。

マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して [DVD]

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監督は息子のナサニエル・カーン。
ルイス・カーンは家庭を3つ持っていて、ナサニエルはいわゆる愛人の息子。
特殊な家族関係のなかで育った彼は、11歳の時に亡くなった父親のハートビートを追って
父の建築物を訪ねる旅に出た。そういうドキュメンタリー。


世界中に、父親の面影が残されているとは、なんて素敵なことだろう。
なんて、羨ましいことだろう。
父親の作った作品のなかで、人々が生活しているなんて。
それでも時間は過ぎ、建物は少しずつでも変容している。居心地のよいように変えたり
老朽化を補完するために手を加えている。
面影は時間の経過とともに変わる ゆがむ? いや、歪まないのが建築だ 
ナサニエルは建物の中に身を置き、父親を感じている。


自然はすばらしい。でも、自然には作り出せないものがある。
旅の終着点はバングラデシュ、国民の精神の誇りにすらなったバングラデシュ議事堂へ。
そして一緒に仕事をした建築家の話を聞いたら、謎が解けたような気分になった。
「彼は私達を、この国を愛してくれた。
 きみたち家族への愛とは違う。家庭を顧みず、辛かったかもしれないけれど
 どうか赦してあげてください。」
私には、バングラデシュを愛する、ということじゃなくて
『彼はこの世界を、どうしようもなく愛していた』と聞こえたんだ。
建築はこの世界への愛以外のなにものでもない。
世界のなかに建ち、輝く自然をもっともっと美しく、心にせまるように感じさせる建物…
人々が生きる場と自然との調和を求めて生きる、それが建築家の人生だった。
それは言ってしまえば、宇宙と人間のコミュケーション という行為に他ならない。


息子ナサニエルは、バングラデシュの河にゆられながら旅を終える。
建築物として残っているお父さんに、やっと、さよならを言った。
灯篭流しは暗い川を流れているようで、亡き人の過ごした時間の中を流れている。
建築家をめぐる沢山のインタビューの記録は、彼の良し悪しを否応なくカメラに語った。
破天荒な人生や人となりについてのドラマもとても興味深く、一言でいえないほど色々なことを
思ったけれど、それはパズルの1ピースだ。
美しく世界に輝くルイス・カーンの建築物の、ねじやレンガと同じなんだ。あの素晴らしい作品を前にしたら。