ビデオアート史講座@横浜美術館

知らぬ間に、きょうが第四回目だって。
横浜美術館レクチャーホールで行われた「ビデオアート史講座」受講してきました。
先日アップリンクへ行った時、チラシハンターしてて見つけたの。
ビデオアートのレクチャーって、How Toやアーチストトークが殆どだけど
これは日仏学院プレゼンツのれっきとした『課外授業』なのであります。
講師は東京日仏学院の先生(フランス人)で、ビデオアートや映画・メディア全般の評論家。
逐次通訳が入るけど、フランス語を学ぶ日仏学院の生徒が多く来ているのでしょう。
ホールへ入ると、ノート片手に学ぶストイックな受講生がずらり。私は思いっきり一般客だけど
なつかしい大学の授業の感覚や、社会に出てから何度も、仕事とは無関係に自分の好きなことを
学びたい欲が沸いてた、アノ気持ちが大復活。わーい 勉強だーと内心はしゃいでました。
講座といえど一般1200円と安い。そして日本では滅多に観られないビデオアート作品の数々が見られる!
今回のテーマは「80年代フランス編:ビデオアート第二の黄金世代」
フランスのビデオアートって、ぱっと浮かばない…と思ったのがそもそもここへ来た理由でした。


60年代、フルクサスのナムジュンパイクが生み出したビデオアートは、すぐにフランスへ飛び火する。
けれど間もなく70〜80年代初頭、フランスのビデオアート界は暗黒時代に突入…。
映画を芸術として大切にしてる国だから、ビデオを軽視して芸術と見なさない風潮があったそうだ。
映画界では、70年代にゴダールがビデオ作品を作り始めている。
でもそれはTVによるTV批判だったりして、あのウルトラひねくれ者の取り組みですからね
ビデオの価値を芸術的にアピールするものではないと見過ごされた。
いや、ゴダールは本気の芸術としてビデオに向き合ったじゃないか、と思うんだけど。
80年代のビデオアート作品は、TV局(キャナルプラス)の助けがあってようやく、徐々に
作品を作る技術環境が与えられていったんだって。
そんな訳で今日の上映作品は、技術的にもクオリティの高いものばかりだった。
美しく、鮮やかで、とても見事な映像美だった。


夢や幻の映像化を試みている映像。
人間が見えないはずの(でも第六感で感じている)光景を、それをもっと超えるものを
つまりイデアを具現化するのが芸術、だよね。
そして視覚化しようとするのが映像芸術、ビジュアルアート、ビデオアートもそこにいる。
それから、人間の全六感にダイレクトにコネクトしようとしているのが実験映像。
ビデオアートと実験映像は見た目似ているし、とても近い表現手段だけど、別モノだと思う。


ビデオアートはビデオでしか出来ない画の質感と技術が根底にあって、フィルムじゃ表現不可能な。
ビデオっていう機材だから出来るもの、それは例えばコマ送り再生なんていう単純なことからでも
映像表現の手段が増えたんだね。フィルムじゃ出来ないことが一気に増えた。
映像のアイデアマン達が、この機材を利用して、様々な視覚効果をかんがえた。
VHSを10回ダビングした果ての色の滲みとか、そういうのをアートにした。


今日観た作品、メモ
「サーカス・コンフェランス」
 「デリカテッセン」や「ロストチルドレン」の監督、マルク・キャロの短編で
 サーカス団という大衆芸術を、映像のトリックで機械仕掛けのオモチャにしてしまった作品。
 フランスではまさに大衆に大人気、という稀なビデオアート作品だっていう。
「排他家の踊り」
 ビデオダンスという珍しいジャンルのビデオアート。
 ビデオのフレームと映像処理を考えた上で、ダンスの振り付けを行った作品で。
 演出は、この場合どちらなのかな。監督?振付師??
 ダンスがスローになる、肉体の残像が残り、重なり、逆回転して…時間軸が交錯する。感情がブレてゆく。
「De doute et de grace」
 ほんとうに美しい映像だったんだけど…インドの水浴び風景に、手すき紙に書かれたテキストが重なり
 絶え間なく往来しているオーバーラップ映像でね。テキストの朗読をする声や、音楽、現場の音、
 ハレーションのキラつき 何もかも美しくてまいった。ああ、皆さんにこの映像を見せてあげたい。
 YouTubeとかにないかなー?インド映像は8mmフィルムで、それをビデオで再撮影してると思われます。
「手品師」
 ルネッサンス時代のアウトロー、ヒエロニムス・ボスの超印象的な絵画「手品師」を
 そのまま映像化してしまった!という凄い作品。
 ボスの描いたあの『瞬間』に至るまでのマジカル・ミステリーです。
 500年以上経って、自分の絵画がこんなリミックスを施されているとは、ボスもびっくりのはず。
 1990年制作のこの作品が、ビデオアート初のフルデジタル作品という話です。 
スタンダール症候群」
 フィレンツェ観光する若者が、ルネッサンスの芸術群にやられてぶっ倒れる。彼をめぐるめまいの主観と
 客観的光景を、ビデオの手法総動員で映像化した作品。美意識過剰だけどそれがスタンダール症候群か、と思う。


80年代のビデオアートは、デジタル技術の成長期もあいまって、その質感を追求するにしたがって
どんどん華美な方向へ向かったのね。
その最たる時期に、映像美学を追求した大スター、ピーター・グリーナウェイが現れる。
「手品師」を撮ったイブ・ランボズは、グリーナウェイの盟友で共同制作もしている。


そうか、あの頃ってそうだった。
私はグリーナウェイとマイケルナイマンの、異様なまでにストイックな美の極みに完全にヤラレていた。
その頃、映画界ではもう一つの波が流行し始めてた。「ロードムービー
ジム・ジャームッシュヴィム・ヴェンダース。道端で起こる些細な出来事が心に刻まれる、新しいリアリズム。
それから「ブラックムービー」スパイク・リーが特攻隊長で世界に殴り込み、路上の映画が踊りだした。


もう、美しさだけでは充分じゃない。
90年代以降のビデオアートは、華麗なる映像美から離れたところへ向かって進んでいくのです。
DVやCG、デスクトップビデオの一般普及もあるでしょう。ビデオアートはホームメイドの時代へ突入し…
この続きは2月ね〜


こんどは2月24日!興味ある人は迷わず行くべし!
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=362