蓋を開けてみたら、虹が出ました。

きょうは毎度おなじみのロケ、だけど初めての「車両ロケ」
登場人物は車が数台と、街かど。
一般道路の交差点でドライバーが遭遇する出来事を再現する、という
考えるだに厄介そうな撮影だった。
車が演技する・・・って頭では分かっていても、いざ自分が撮影するとなると
全然想像がつかない、というのが本音だった。
街も出演者だから、関係ない車や通りがかる人々が、うまいこと動くのか?
下手したら1カットも撮影できないまま終了・・・なんていう不安が片隅にいた。


でも朝、現場で車から降りてきた「役者さん達」の顔をみたら、その不安は吹っ飛んだ。
ひとめでわかる、信頼できる人たちだったからだ。
味わい深いおっちゃん達は、自分の運転する車の演じどころを熱心に聞き、それぞれに演技を考えて
そして車に収まっていった。
あの車のなかに、あの人たちがいる、と思うと、なにも心配しなくていいと感じた。
あなたもTVなんかで、車の登場シーンをさりげなく目にしていると思う。
その中には、車を衣装にして動いている、アツい「役者さん」が入ってるってこと。
そう思うと、なんだかロボットみたいだね。顔をみせないけれど、主役の人たち。
その演技はとても自然で、ほんとうに上手かった。


私はロケ限定の晴れ女で、どんなに台風の日でも「その時」が来ると必ず晴れてしまう。
けれど今日は、途中で天気雨が降った。
みんなそろそろ疲れて、おなかがすいてた頃だったから、お昼ごはんを食べることにした。
もし雨がやまなければ、ロケはもう中止するしかない。
でも私は不安じゃなかった。役者さん達の気楽なあたたかさや現場の空気が
ここで、終わって途切れるような気がまったくしなかったし・・・私がいるから絶対晴れると信じてた。
ロケ限定で晴れるのは、天にまします私の父親のしわざだ、と勝手に思ってる。いつも。


雨は、ちょうど昼食を食べ終わるころに晴れた。
誰かが笑って「虹!」と言った。うわぁ、これは。
レストランの窓から見える空に、大きな虹がみえた。
とても嬉しかった。世界はイエスだ。のぞく青空が笑うようにみえて、その笑顔が
世界の偶然をまとめて、ぽんと虹にしてみせた、私の父の顔になった気がした。
そして、生きていたらこの人たちと同じ位の歳なんだな・・・と思いながら
役者さんたちが「ホルモン焼のおいしい店」や「東スポ一面記事」の話をしているのを見ていた。
彼らと私は今日ばったりと出会い、一日をともに過ごして、手を振って別れる。
なんの因果か雨が降り、一緒に虹をみた。
すてきなメモリイじゃないか。
今、家で思い出しながら、心のなかでメレディス・モンクの「Memory Song」が流れているよ。
ドゥー・ユー・リメンバー?
ドゥー・ユー・リメンバー?
これから一回だけ聴いて、今夜はもう眠るんだ。