音楽が聴こえてくる人

夜が早く来るようになった。
スタジオから窓の外を見下ろして、きょうは少し悲しくなった。
夜は長くなっただけなのに、私に楽しむ元気がないだけだ。
そのまま人影が通り過ぎて残像みたいにぶれたまま、地下鉄の構内を動いて、
そのまま帰ったら、ちょっと辛くなった。よくある話だね。


そんなときのネオンの効果は絶大だ。夜闇に街を光らせようとする力は素晴らしい。
地上に出て、ふいに浮かんだ歌があって、意図するともなく
オリジナルラブの「夜をぶっとばせ」
思い出して歌っているうちに、その歌にある普遍的な強さに感心して
原因不明の病魔はぶっとばされてどっか行った。いい歌だなぁ ほんといい歌だなぁ・・・
ディテールや歌声をつぶさに思い出せるほど愛して聴いてたこの歌を、きょう突然思い出すなんて
自分の中にもうひとり自分を治癒する医者がいるんじゃないかと思う。


ピチカートファイブ田島貴男さんが居たころに出来た歌で、私はどちらのバージョンも好きで
あのころ田島さんの歌声に惚れまくっていたからなつかしい。
田島さん自身のことはよく知らないけど、あの歌の主人公に恋していたんだね。
映画スターの映画の役柄に夢中になるのと、まるっきり同じで。音楽だからビジュアルは伴わないのに。
だからこそかもしれない。歌の『主人公』の印象だけが残る。そしてそれは私自身ではない。


私は人の印象に音楽を見出すほうだ。
男女問わず、好きになる人にはだいたい、○○のあの曲みたいな人だなぁと思うし
付き合いが深まっていっても、その印象はあんまり変わらない。
それは、私の中でその人を短編ビデオクリップ化しているから?とも思うけど
不思議と、音楽を感じる人はおおむね音楽と深い付き合いをしている人ばかりだったりする。
あまり聴かないとか、それほどの熱心さはないという人からは聴こえない。
そうなると、たとえば彼はこの歌を愛してるから、影響を受けてそんな雰囲気なのかというと
それらを確かめたり、本人に確認したりすることは滅多にないからわかんない。
それは秘密にしておきたい気もする。


ただ思うのは、私が感じるその音楽を、本人が一度も聴いたことがないとして
これはあなたのような音楽ですよ、と聴かせたら、その出会いは何かを生むのかな?
私が見出したあなたの要素は、少なからずあなたの一部ではないかしら。
なんてこと。
思い出とは関係なく、その人自身の好みに合う合わないではなく、私に聴こえるあなたの音楽は
それは、あなたですか?
(でも誰かにそう聞きたいと思ったことは一度もないのです。伝えたいと思うことはあっても。)

Standard of 90’sシリーズ「LOVE!LOVE!&LOVE!」(紙ジャケット仕様)

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