凄いのは分かるけど、私の愛の対象じゃない

人の感覚とはデリケートなものです。
度合いは個人により異なるでしょうが、例えば恋愛や友情などはその最たるものでしょう。
なんでこの人じゃだめなのか・・・またなんでこの人がいいのか・・・
そんなものわかりません。たいがいは。どうでもいいのです。
直感の第六感がいかに、毛細血管のように複雑怪奇な人格構成から生まれてるかってこと
今日はそれを相対的に感じるための一日だったようです。
めずらしくピンズレな、そんな代休。。ピンボケじゃなくズレ。1ミリちょっとの。


今日は渋谷のナンヅカ・アンダーグラウンドで、田名綱敬一の個展をみました。
『金魚』は舞妓さんみたいでしょ、という展覧会案内の田名綱さんのコメントに惹かれて。
個展では半身金魚の女の絵画や、造形物が展示されるっていうから観に行った。
この人が本当に凄い感覚で、尋常じゃないセンスで生きているのはよくわかったし
映像作品も流れていて、そのアニメーションも凄い奇妙キテレツでアートそのものだった。が、
私、この人が作るもの、苦手・・・。
やっぱり、苦手・・・。
深く知らないけれど、興味がある。たまに見かけるギャラリーの絵画や作品集はぴんとこない。
でも最近、人魚が気になってしかたない私にとって今回の展示テーマはどんぴしゃで
こんな面白いこと言うのなら、間違いなく面白いだろう。田名綱さんの世界を堪能できるだろう。
と思ったら、あえなくはじかれた。映像ですらも。
近いのに居心地がわるい。遠すぎておいてけぼり。
尻尾を巻いて青山ブックセンターに逃げました。


それからDVDをふたつ観た。
おもひでぽろぽろ」と「パプリカ」
どちらも人気の高いアニメーション映画。


おもひでぽろぽろ」は、東北の風景描写が素晴らしかった。素晴らしすぎるぐらい。
しかしその手前にいる主人公や人物にうっとうしさを感じてしまった。
今井美樹さんの主人公の声がすごく媚びていて、本来は素敵で繊細な言葉が、まるでからっぽな嘘だらけの
しらじらしい会話に聴こえたのが致命的だった。
例えば「わぁすごい!」が、それほどすごく思っていないかのように・・・この子何にも感動しないのかなって。
主人公は子供時代・大人の現在と、ふたりが交互に、時に併走して出てくるのに
この二人は果たして同じひとりの人間でしょうか?と思うほど、大人の主人公は歪んで閉じている感じがした。
それはそう、狙い通りなのだけれど(大人がインナーチャイルドと向き合って、殻を破るお話だから)
それはエンディングでわかって、まさにぽろぽろ泣いちゃったんだけど、それでも思った。
この映画は美しいと思う、マジック多発の無意識的表現も好き。脚本が上手。
だけど、登場人物が苦手・・・。声そして、大人の顔、表情が。
これってめずらしい例だけど、映画は複合芸術だからこそ、些細なところでも好き嫌いがはっきり出るよね。
すごくいいところがあると、余計に気に入らないディテールが目だってしまって悔しくなります勝手に。
今井美樹さんはそんなに嫌いじゃないけど、声だけの芝居ってきっと女優さんには窮屈なんだろうな。


「パプリカ」
まず、この映画は凄い上等なアニメーション作品だった。
阿佐ヶ谷に越してから、今敏監督の作品をひたすら見ていたけれど、このひとは『映像脚本』がすごく上手くてね
映像をぐっちゃぐちゃにシャッフルしていきながら、数列が計算されていくっていう、たぶん理数系の作家。
ぜったい飽きない台本構成と演出力で、彼の作品で退屈するひとはまずいないでしょう。でもね、なんっかいつも暗い。
千年女優」なんて壮絶な虚構現実の一大事業で、歴史に残るSF映画で、間違いなく素晴らしい。
緻密な構成と圧倒的な映像の洪水。だけど見た人は最後の最後で、どーんとみょうな暗さに落とされるというか
後味が悪いというか・・・。
「パプリカ」はそういう暗さは無いのだけど、やっぱりなんだか現代的な暗い歪みがあって、それを露呈させる映像が
端はしに現れて。いやむしろ、ディテールの選択基準自体が、私には居心地悪く感じたのかもしれない。
パッキリ明快で、凄いビジュアルショックで、PVみたいに刺激的で面白くて。パーツで流し見したり、映画に入り込まずに
客観的に『演出手法の参考』とするにはこの映画はばっちりだ。
(映像表現のアイデアの勉強になるってことは、今さんの全作品に言えることだけど)
だけど自分の肌に合うかというと、視覚的には合うのだが、精神的に微妙にズレている・・・。
やっぱズレてるんだな・・・。パプリカですらも。
人間の感情の描き方が甘い。超平面的。私が理解する(愛する)精神描写の範疇ではないな、という感じがする。
とても魅力的なのに、その点において私はやっぱり「パプリカ」を愛せない。


そして、自分がいかに押井守さんの作品や「カウボーイビバップ」を愛しているか、奈良美智森山大道と肌が合うか
そして、それがどれほど自分にとって奇跡的なことかを知ったのです。