オウテカと私は夜、不思議な旅にでた

テクノ界のトリックスター、ジョーカー、リズムの津波
オウテカが来日したのは、先月のいまごろでした。
ご報告が遅くなりました。行きました。今夜はオウテカのライブのお話です。
会場は恵比寿リキッドルーム、初めて行った。ロッカー、フロアの構成、柵の色合いまで
新宿リキッドルームをそのまま移植したような場所でした。
夜、このような純然たるテクノのイベントへ行くのはとても久し振りで
その空気の懐かしさにくらくらしました。
夜踊る高揚感がどんな人にも表れていて、その中毒になっている人や
「夜遊びする自分が好き」な人や、素朴なファンや、どこ行ってもアイデンティティ
変わらなそうな外国人や、人間関係を意識しながらそこにいる若い子たち、それに私達。
オウテカのリズムはかまわず津波になり人々を飲み込んで、容赦ない力で夜明けの岸に放り投げる。
みんな、めちゃくちゃになったでしょう?どうだい、これが「自然の力」だよ。


オウテカのライブは真っ暗闇で行われる。
今回もまたそうだった。真っ暗な密室で千人近くの人々があの、ひとだまのように縦横無尽に
フロアを飛び交う強烈な音に踊らされるなんてもう、何か体験型のインスタレーション作品みたいだ。
「踊る自分の姿」という概念は完全になくなるだろう、ただ動く身体を感じるだけだ、真っ暗闇の中では。
音と自らの身体だけ。オウテカは極めてダイレクトなコミュニケーションを求め、与えてくる。


新しいアルバムを聴いたとき、とてもライブの感覚に近いアルバムだなぁと思った。これはいい。
とてもアクティブで、相変わらず入り組んで面白くて、思い切ってポップだと言ってもいい。
けれど最後の曲でこれはなんだ!?なんだなんだ?と衝撃を受けて、全身がぞわぞわした。
私にとって未知の感動で、未知の感情で、未知の場所に降り立ってしまったみたいだった。
なんてことだ。私はこんな思いをさせる遊園地のアトラクションはみたことがないし
こんな映画も、絵画も、観たことがない。


オウテカのライブは特別で、いくらアルバムを聴いたところで、ライブとは別物だと思う。
音の強さが直接身体を襲う。なじみの曲がどんどん変形して別の曲に流れる、どこまで生き物なんだ。
常にライブアルバムを出すべきだと思う。この変形の記録はいつもいつも残しておいたほうがいい。
ダンスミュージックは、テクノは、快楽を与える。踊ってさらに、快楽が増す。どこまでも。
オウテカのライブは快楽を享受するという余裕など与えず、まったく血液に入ってくるかのように
身体をかんたんに突き破って、どんどん降ってくる。オウテカのリズムが自分の脈になるみたいな感覚。
本当にすごい、と思う。音楽でここまでのことが出来てしまうこと。あの音楽。
他にはない、ありえない音楽。


私はオウテカのアルバムを、電車の中やあるきながら聴くけれど、そのとき風景はみえていない。
とても耳に身体を奪われる音楽なんだと思う。新譜を聴いてたとき、息がつまって呼吸のしかたを
忘れてしまったことがあった。今思うと笑っちゃうけど、その時はがばっとイヤホンを外した。
BGMになりえない音楽がオウテカの音楽。私がオウテカになってしまう。
そしてそれを求め、それがとても素晴らしい体験だと思い、私自身にどう影響がでているのかを
その体験をしているときに広がった思考を示すメモを、あとから見て知るのです。
そのメモはオノヨーコさんの走り書きのように、私がみる現実の抽象化のようで
イヤホンをしてない私は後でそれをみて、改めてびっくりするのです。
私はこの小さなイヤホンから、なにを受信したんでしょう?

Quaristice

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