カート・ヴォネガット的、日々のSF

先日「タイタンの妖女」を読んでしまってからというもの、いま私の頭の中は
もうカート・ヴォネガットでいっぱいです。
書かれた年代を思うと、非現実全開のサイケデリックさが溢れるのもうなずけるんだけど
なんていうか、世界が狂い咲き。なのに完全。なんて容赦のない・・・。
ものすごいビジュアルショック、文字なのに。やられちゃった。ひざまずきたいくらいに。
そしてテキストとしてのかっこよさ!
書き方、言い回し、文字の配列・・・言葉ひとつも、研ぎ澄まされて完璧だ。
このテキスト展開は、はっきり言ってアートだと思う。
ただの文字の連なり。なのにぎょっとしたり、どきっとしたり、とても効果的に配置されていて
文字のインパクトと、それを読むドキドキ感が、まるで現代美術に出会うときみたいな感覚がする。
どんな日常を送っていても、物語世界に送り込まれてしまう強制送還ぶりはきっと、
このやりたい放題がどこまでいっちゃうのか、どこまでも体験したくてしょうがないからだ。
それはページが終わるまで続いた。すごかった。なんて終わり方なんだって、ほんとに。
私がヴォネガットを愛してるのは、世界の眺め方がななめで、完全に45度〜ときに90度まで
傾きながら、彼の見える世界を「正しく」伝えようとしているところです。
ヴォネガットのように、我思う世界を平然と、正確に、飄々と見せられる人になりたい。


このごろ仕事で、可愛いアイドルちゃん達を撮影したり編集したりしてて
毎日、アイドルちゃんと誠実に向き合う日々です。がしかし。
その間にヴォネガットの小説を読んでいるものだから、なんかとても妙な感覚で見てしまう・・・。
自分の仕事をふと俯瞰して、おかしなものだなぁって思った。
撮影って、その被写体のひとの時間をとじこめてしまうことで、世界を切り取ることで
編集って、時間を浮遊移動させている行為で、それを見るファンのかたがたは
この子たちの瞬間移動を目撃してるってことになる。
じゃあTVはタイムトラベル中継ボックスと同じかな、とかいうくだらないことを思いながら
私は神でもなんでもなく、そんな時間移動の権限をもっているわけだ、なんて驚く。
そして権限を行使しているあいだに、私自身の時間が過ぎていく。
ここ数日の視覚記憶の多くが、時間移動されていくアイドルちゃんの姿で占められている。
あたしはその子たちが好きになる。なるべく可愛く時間移動させてあげたいって思うようになる。


昔の映像を見て、ああ○○ちゃん可愛かったね、なんていまだに人々は癒されたりする。
私の目の前に座る○○ちゃんは、もう姿が変わってしまったとしても。
○○ちゃんのシミを消してくれ、とかいうくだらないオーダーがきても、あたしたちの仕事は
時間と空間をゆがめるSF的虚構世界をつくる役割なのだったら、しかたないって思える。
アイドルは映像のなかに生きている物体なんだったら、それなら。
レコードに記録される音楽と同じだ、と思うなら。
あたしたちは演奏をミキシングするようにして、擬似的アンドロイドを作ってる。
・・・なんつてちょっと、サイバーパンクな感じになってきてしまいました?


最近、毎日眠るたびに夢を見ています。
それらの夢はわかりやすくて、現実の一大シャッフル、様々な感情が具体的にドラマ化されたカットの集合で
ものすごいスライス・幻覚・カットアップの連続。目覚めるとぐったりする。
アイドルちゃんたち、身近な人たち、親友たち、撮影現場や編集の画面、近所のレストランの名前、動物・・・
これらが見たこともない風景を舞台に、現れては消えていく。
それで今の今までまったく不思議に思わなかったことに、ふと気がついた。
・・・なんで、舞台が、見たこともない風景なんだろう?
現実に会う人々が出てきて、日々気がかりな恐れや驚きがドラマ化されている。それは心の業だろうと思う。
でもこの舞台は、何?
出てくる建物のパーツや雰囲気にも、心の状態が反映されているって、
夢について調べたことある人なら、誰でも知ってると思う。
だけど、もととなる心理アレンジ前の風景って、どこからきてるんでしょうね。
雪を見たことがなければ、雪を想像することができないように
その風景に私は出会っているから、夢で再現されるのよね。きっと。
けれど思い出せない。日々の瞬間において、幾つの無意識なる記憶を捉えているのかって・・・
目が。耳が。途方に暮れる。


いま、スローターハウス5を読んでいます。
だから思うのです。「いま」は通り過ぎているようでいて、未来になって、はっきりその道筋が
(通過と消耗だけでなく)なにか、意図するところへ進んでいることがわかるって。
私の尊敬する先輩が、へたれの私にメールをくれた。それにはこう書いてあった。
”立ち止まらない、後戻りしないこと!”
その夜、まったく同じ言葉を青空に向かって叫ぶ夢を見た。パラシュートで降りてくる人達を見ながら。
そばにいる親友に、あれは過去から来た人達なんだよ、と私は説明する。
すると彼は、過去から来て、未来を楽しめばいいんじゃない、って言った。
ああそうか、と思ってほっとして、「解決!」って言いながら目が覚めた。
日々是SF哉。