8mmフィルムの眼

下北沢にラ・カメラという不定期上映館があります。
昔々、15年ほど前には乃木坂にありました。いつまであったかは分からない。
私は高校生のころ「ぴあ」のシネマテーク欄を見て、上映作品のタイトルを見て
なんだかわかんないけど相当に宮沢賢治の匂いがするぞ、と察知して
ひとりで乗り込んだことがある。夜の上映で、終わったらビールやらおつまみを
薦められて、高校生ですと言ったらジュースをくれた。
勝井祐二さんがヴァイオリンをかついで、フィルムに合わせて生演奏してたこともある。
私がわけもわからず楽しみ、うっとりして観ていたそれらの映画はというと、
山田勇男監督と山崎幹夫監督の作品だった。


のちに入ったアングラ映像専門学校の仲間たちが憧れる、実験映画のスター監督。
自主制作で名を馳せながら、有名な俳優たちが出てるロードショー作品もやる。
何が実験で、何が映像表現なのか、自分は映像でなにができるか、そういう監督としての
表現手段を模索して知っていくには、実験映画はとてもいい参考になる。
これも、あれもアリなんだ、って知る。びっくりするような見たことのない世界の姿が
視界に広がったりする。これは日常の断片なのに、その寄せ集まりに号泣したりする。
刺激が強く、それからとてもダイレクトで、伝わるかどうか、人を選ぶかもしれない。
学生のときこの辺りの映画から影響を受けたことは、逆に「仕事としての映像」をやっていくには
ときに足かせになったりもするのだけど、あたしはこの影響を棄てる気はない。
時々、仕事の映像でも(あはっこれ実験映画的)と思えるものをこっそり織り込んだりする。
でも誰も否定しないんだから、あたしの考えは間違ってないのかなと思う。


そんなわけで、あれから15年、一巡りして初心にかえってラ・カメラへ。
山田勇男監督と山崎幹夫監督の上映会を観に行ってきました。
こんなことで驚くなって感じだけど、会場には懐かしいELMOの映写機がどんとあり
お二人はもちろん、今も8mmフィルムで撮影して、上映しているわけです。
15年前、8mmで上映って当たり前だった。今、8mmのままで上映するってハコは滅多にない。
だいたいがビデオか、16mm以上にブローアップしているかだ。
今回の上映は、昔の作品から最新作まで広く取り上げているけれど、またまた驚いたのは
今年や去年制作の作品の多さ、2000年代のまんべんない制作ぶり。
そしてまた、これが凄い面白かったのです。これは、8mm手にして数年とかじゃ撮れない映像。
技術的なところはもちろん、狙いが明確で、構成がとっても上手くて、すごいバランス感覚の上に
成り立っているわけです。
山崎幹夫監督の「ロートレックの路地」「表面科学の路地」は、やってること、ほとんど押井守
「TOKYO SCANNER」と同じなの。8mmであれが出来ちゃうんだ!ってびっくりしたし、もちろん押井さんと
視点は違うから、それがとても愉快に感じる。
山田勇男さんは幻想具合に拍車がかかっていて、幻想世界が(賢治的ファンタジーではなく)なんだか
現実にとって代わるぐらいの存在感をもって見せていた。もう強烈に。全部幻想で、それが現実だっていうふうに。
8mmフィルムの眼を忘れないで。
いくら地上波がデジタルになったって、ハイビジョンが当たり前になったって、映像の魔術は
高画質とは関係なくここにも居る。鮮明な映像が絶対に表現できないマジックが、8mmや16mmフィルムにある。
デジカメがどんどん高画質になるのに、ロモやホルガのトイカメラが流行し続けているように
8mmカメラもある日突然、大ブレイクしたらいいのにって。
帰りに下北ヴィレッジバンガードトイカメラコーナーを眺めながら思った。
誰かプランニングしてください。って私が考えようかな。漠然とそんなこと考えてる。高画質と別世界旅行のはざまで。


ラ・カメラ上映詳細はこちら!
http://www.ne.jp/asahi/muen/press/lacamera_html/lc-frame.html
ちなみに山崎幹夫監督のブログもね。
http://blog.goo.ne.jp/gootari/