攻殻機動隊2.0

映画「攻殻機動隊」がバージョンアップして「攻殻機動隊2.0」
じゃあ攻殻機動隊3.0以降とか今後もバージョンアップが続いたりする?と思い
そして劇場へ行き、帰り道、マイナーアップグレードでも幾らでも続けられそうだなぁ
と思ったのは私だけじゃないはずだ。
同じ内容の作品が、バージョンアップとしか言いようのない姿で
こうやって現れるのってすごくおもしろい。
よくある完全版とはまったく違う主旨で、もちろんリメイクでもなくて
この『バージョンアップ』はアニメーションだからできるんだよね、と思う。
映る人物は歳をとらないし、顔も変わらない。同じ人物ってわけで。
けれども草薙素子はときおり立体に!3Dになり(ほんとにびっくり)
同じ人物の声が、男性から女性になっていたり(これは素晴らしかった)
なによりもバージョンアップしているのが、背景、つまり世界。
パキッとしたデジタルの鮮やかさが、大きく変わっていて
イノセンス」のあの滲むような奥深い、迷宮の現実世界になっています。
そして色彩の美しさ、世界の表現力が劇的にバージョンアップされているものだから
ああそうか、これが2Dと3Dの違いだ、と自分の職業も省みず、ただただうっとり。
それだけでなく、もういきなり初めっから全然違うカットで始まるし
追加されたカットが次々と収まってくるんです。


感動したのが、オープニングのタイトルクレジットをまるごと作り直していて
マトリックスな010101のデジタル数字羅列からモトコさんが構成されていくのではなく
繊維のような、柔らかい人肌に似た人工皮膚のクローズアップから構成されるのです。
押井さんは、まず言っておく!ってオープニングで宣言しているのよね。
バージョンアップがどういうことか。それはこの映画の世界を、とても感情的に描くことだって。
近未来のデジタルメカニックな要素を排除して、みせたいのは『近未来の人間』の感情で
風景ひとつにしても、感情が浮き上がるように、際立たせるために作り直しているように思えた。
イノセンス」はとても感情的な映画だけれど、あの感覚が「攻殻機動隊」には欠けていた。
非常にカッコいいけども、画面から滲むような情緒が排除されていたし
そのクールが魅力でもあったと思う。私はあれも好きだけれど、はっきり間違いなく「攻殻機動隊2.0」
のほうが段違いに良い。好きだ。圧倒的に大好きだ。
両者の違いは、ウィリアム・ギブソンレイ・ブラッドベリ位違う。
感情的になったぶん、今まで見過ごしていた登場人物たちの感情の揺らぎが
ストーリー展開にじつに細かく影響していることがみえてくる。


カットを足して再編集するやりかたで、より理解できるっていうのはみんな、そうなんだけど
言っちゃえばこの映画がやったことは、ほぼ全編リテイクなのよね。さらに追加撮影。もちろん
最終的にはオリジナル素材と混じりあう。なんの違和感もなく。
これは実写じゃ不可能なことだ。舞台となる場所の色も質感も大きく違う。
そして出演者は歳をとっているわけです。いま撮影しなおしたら。
うーーーんばかみたいな意見で申し訳ないが、
アニメーションってすごいな!
とこの、日々のSF事件としか思えないバージョンアップ事件を観ながら、しみじみ思いました。
劇的バージョンアップです。これはファン向けの変化じゃありません。
ラストカットは美しすぎて目を疑います。モトコさんの目に映った「ネットの世界」は
これだったんだ、とさーっと鳥肌がたちました。
短期間上映のようだけど、間に合うならぜひこの美しい世界を、劇場で視覚体験してください!