お盆ものがたり〜猫の幽霊

akk2008-08-11

今年のお盆はもう一箇所、お墓まいりに行くことになってしまった。
少し離れた山中にある動物墓地。
わたしが飼い猫の死のしらせを受けたのは、亡くなってから一週間ぐらい経ってからで
墓地に埋葬が済んで、それからもっと後のことだった。
母親は、外にいるとき泣き出したら大変だからって携帯にも電話をせず、家の留守電に
報せを残すこともできず、ただ私が早めに帰宅するときを待って。
電話を取ったときだって、なかなか言い出せなくて黙ってた。
「ミンが死んじゃったよ」
・・・私は平気な顔をして、穏やかに落ち着いてそのときの状況をきき、母も静かに語り、
ある瞬間、壁がくずれてふたりで電話越しに泣いた。


ミンは虚弱体質のちいさな猫で、5匹いる飼い猫のなかで唯一メス猫で
うまく鳴けなくて、いつもミン、と消えそうにか細い声で鳴く。すごく嬉しいときだけ。
それ以外はふがふが、ふがふがと鼻をならしている。つぶらなチビ猫。
豪雨の夜、わたしの友人が棄てられた子猫を見捨てられずに拾ってきて・・・うちにきた。
そのときミンは幾つだったか、それからふた周りほど大きくなって、ずっと10年そのままだ。
そして今夏の暑い暑い日、猛暑の日。ミンは押入れでのびてしまって、そのままの姿勢で動かなくなった。


ミンは控えめで遠慮深い猫で、私や母に甘えまくる他の4匹の猫達が離れるまで、私達のそばには来ない。
誰もいなくなると、おずおずミンミン鳴きながらひざに乗る。
やかんに寄りかかるのが好きで、いつも熱いやかんに寄りかかろうとしておこられる。
ミンは独特な・・・ひとりっ子みたいな性格だった。黙って何かしてて、黙ってがまんして、けんかも我関せず。
ちいさなおとなしいミンの幽霊が、亡くなった夜にいたんじゃないかって母が言い出した。


その夜、いつも元気でうるさいほどの猫たち4匹は、とても静かだった。
不思議なくらい静かで、えさをあげても(いつもは押し合いへしあいなのだけど)黙って食べている。
4匹の猫がどれぐらい賑やかって、想像つくだろうけど走り回ってたいへんな騒ぎだ。
母が座っていると、いつもひざの上争奪戦が繰り広げられる。それで軽くけんかにもなるほど。
けれどその夜は、誰も母に近づいてこなかった。4匹の猫は遠巻きに、母を囲むように座って眺めている。
誰もいない母のひざの上をじっと、静かに、眺めている。
ミンがひざの上に乗っていたんだろうって言う。
ミン!ミン!!
ミンがお盆のナスの馬に乗って鳴く。


動物墓地はたくさんの写真と、えさとおもちゃと・・・思い出があふれている。
亡くなった者への純粋な愛がにじんでいる。だから暖かく、悲しい気持ちになる。
帰り、阿佐ヶ谷の家まで母に送ってもらったとき、近くの道でミンそっくりな顔かたちの黒猫にばったり出会った。
母はとってもうれしそうに、ミンそっくり、ミンみたい・・・ってほわほわとつぶやいた。
神のみ業か幽霊か。お盆じゃどちらだって構わないよ。