商店街の野良猫

あぁつかれた。
阿佐ヶ谷の駅に着いてほっとする。
つかれた。足がいたい。つかれたと家路に向かいながらつぶやいて
ロケが終わった自由をしみじみと噛みしめる。
監督は現場でつかれたなんて言っちゃだめなのだ。その場のみんなのために。
たいがいは熱狂していて、疲れに気づかないのだけど。


久し振りに一日でたくさんのシーンを撮影した。頭脳戦で、とても大変なロケだった。
私は聖徳太子として、百獣の王ライオンとして、30人ほどの人と向き合いお話をしながら撮影をする。
とてもつかれて、とても楽しかった。
足がぱんぱんにむくんでいる。


つかれたとつぶやいている私の頭の中は、さっきまでの撮影現場から何万光年か離れている。
今やなんにもかんがえなくてよい自由。なにしてもよい自由。すごい安心感。
さっきまで百獣の王ライオンだったわたしは、電車の移動中にちいさく縮まっていき
阿佐ヶ谷に着く頃には、野良猫になっていた。と商店街にいる黒猫兄弟をみかけて思う。
商店街をあるく私は野良猫だ。
外で遊んでたたかって、夜に住処を目指してあるき、ごはんを食べて休む。
はやく丸まって寝たい。身体を伸ばしてお風呂に入りたい。暖かい飲み物、暖かいふとん・・・
野生的だ。他になにもかんがえてない。それだけのためにあるいている。
私はじつにちいさな他愛ない生きものだ、と思った。