セントアンナの奇跡

スパイク・リー監督初の戦争映画「セントアンナの奇跡」をみてきました。
感動的な奇跡の物語だと思って見にいくと、とてもいいと思います。
きっと奇跡以上に、深く広く多くの発見ができるから。
つまりスパイクはそれを見せようとしたのです、奇跡すらも
奇跡めがけて出来事を追い、感動させようなんていう描き方は一切せずに。


イタリアがドイツ軍に占領されつつあるトスカーナ地方に、
アメリカから送りこまれた黒人部隊の物語でした。
バッファロー・ソルジャーの名で知られている彼らは栄誉に飾られている、と
認識していたのだけど(実際、そうして評価を受けているけども)
公民権運動が爆発する前だから、まっとうな扱いを受けているわけじゃない。
全貌の知れない作戦の駒として、特攻隊や噛ませ犬として
なんの権力もなくずさんに差別を含んだ扱いを受けながら、無防備に戦地に送り込まれる。
スパイクの描くかれらは、奴隷時代のように耐え忍ぶのではない生き方をしていて
日常的な差別に怒り、悪態をつきながら、イタリアの街で闘っている。


ナチスの策略でとても印象的なシーン。黒人に向かってドイツ人女性がラジオで語りかける。
こちら側へいらっしゃい、一緒にダンスしましょう。
彼らはあなたたちが死ぬことなんて、何とも思っちゃいないのよ。
あなたたちを、助けようとはしないわ。人間扱いしてないんだから。
私たちは違うわ。あなたたちが好きよ。一緒に楽しみましょう。


ぐらぐら揺れる兵士の顔と、こんな言葉を信じるなと怒り狂いながら兵士を罵る白人たち。
このように随所に、のちの英雄バッファロー・ソルジャーへの差別をめぐる環境が描かれる。
それはとてもリアルで、今もなおあり続ける断片と変わらない。


セントアンナは小さな村の名前で、ここで大虐殺が行われた。
そのシーンも克明であれば、ラスト間近にも物凄い死闘が描かれる。
トスカーナ地方は、狭く坂が多く美しいレンガ道に陽気な日射しが輝くおだやかな街並で、
その場所が、一瞬で血塗れの地獄になる。
容赦ない戦闘のさまは、戦争というよりもむしろ街なかの大量殺人事件のようにしか見えなくて
それは爆撃がまったくなく、ほとんど爆破がなく、銃撃戦だったからだ。
銃が無差別に街の人々を殺す風景は、戦争なんかじゃなくてそれは
かれらが差別を受けながら、守る正義と誇りが魂ごと壊されていく光景だった。


こんなふうにして戦争の非情さを生傷として感じた映画ははじめてだったし
そしてスパイクが伝え続けている、黒人の誇りをもった人種差別への一撃が
ファンとして断言するけど、今までで一番のブラックパワーだった。
よくやったよ、私に言われてもってかんじだけどスパイク、本当によくやった。えらいよ。偉業だよ。
かれらはマルコムXキング牧師へ、オバマ大統領へとつながる道なんだとスパイクは言った、
あなたは映画っていう自由なタイムマシーン装置で、それを伝えている。


神がかっている。
この映画の中盤で、そう感じてどうしようもなく涙が出てしまったシーンがあって
それを観て、あぁスパイクは今、魂がイーストウッドとほとんどおなじ光を放っている、と思いました。
セントアンナの奇跡
http://www.stanna-kiseki.jp/