ニュージーランド、オークランド 第一回/虹の彼方で友に会う

10年ぶりの海外旅行へ行ってきました。場所はニュージーランドオークランド
そこには20年来の親友が暮らしていて、長年一緒に住むパートナーと
このたび結婚をすることになったのです。
3泊4日の滞在。飛行機で11時間。気がつくともう日本じゃないどこかの上空。
わたしの生活が、わたしから一瞬一秒離れていく。
わたしは何者だっけ、わたしはただのわたしで、ただのってどんなだっけ。
飛行機の中で気圧がうっすらと変わるように、言語が変わる。
風景も、街の色も標識も、なにもかも見たことの無い。


空港ロビーに彼女が立っている。
彼女とわたしは、顔を合わせるなり大笑いした。瞬間なにかがパンと弾けるように、
わたしは15歳に戻ってしまった。


きゃー!きゃー!アハハハ!15歳なんて大体こんなもんだ。
熱狂的に話をして、笑いまくって、なに話してたんだっけ?といってまた笑う。お腹がよじれるほど。
でもいろんなことを覚えていて、すぐいろいろな感動をして喜ぶ。
わたしは自分が大人になって、変化し成長をして15歳など遠く戻れない過去の思い出だと思っていた。
自分と同様にみんなそのように、変化しているのだから。
わたしは東京で彼女はニュージーランドで、それぞれの生活をもっている。
私たちは35歳となって日々忙しく生きている。だけど信じられないことに、わたしの中にも彼女にも
15歳の状態は、形を変えずにそのまま在ったのです。
きゃー!!!とはしゃいで爆笑して、まるできのうの学校の帰り道の話をするように
わたしは11時間の空路の出来事や、成田空港でのテンパリ話をして
彼女は放課後に寄り道するみたいに、わたしをネールサロンに誘った。
ただ15歳の時と違うのは、彼女はネイティブのような美しい発音でぺらぺらてきぱき英語を話し
わたしの荷物のなかには、会社の業務用ビデオカメラと三脚が入ってるってことだった。


オークランドは大都市ではない。つつましやかなのんびりした場所。
からりとした気候で、いまは真夏だから抜けるような青空と日ざし。
わたしはここにきてすっかり実質15歳なので、ネールサロンに入ったときも、たとえば
ここが東京なら鷹の目でサロンを見渡し、演出の参考になどとくまなく観察するところを
キャッキャッキャとよろこんでいた。ただよろこんでいる。自分の爪が美しく可愛い色になるのを。
ああ、なんて単純なこと。


現場でたたかう、ディレクターとして仕事に係る全員をひっぱる、巻き込む、楽しませる、
そういった気概で突っ走ってきたこの10年は、こんなに単純にネールを喜ぶ素直な気持ちに
みずからブレーキ&ストップをかけていたのだ。女のディレクターはなめられる。頼りなく思われる。
かといって女性の視点で作ってほしいという依頼だってある。はくをつけたくて、大人になりたくて、
性別以前に私は私の世界の解釈を、映像と生きざまで伝えるために、無性別さを積み上げて、
でもすてきな女性になりたいと願っていて、、つまり私は怖かった。
15歳のわたしの、そもそものキャーを今ここで解放したらどうなるか。
そのうちに、それがどんなものだったか忘れてしまっていた。


20年ぶりに窓を拭いて、うわあ曇ってたんだとわかった。そういう感じ。
マイケルの歌う「世界を変えたいと願うなら、まずは自分を変えるんだ」が身をもってわかる。
「変える」手段のひとつは今までを捨てるのではなく、原点にたちかえることで
何者でもなかったそもそもの私自身を取り戻し、その眼でこの世界を生きることだと思った。
だってそれが一番、快適で楽しいんだもん♪


そのベトナム人が経営するサロンで、英語に四苦八苦しながらネールとペディキュアを楽しみ
郊外型ショッピングモールの靴屋、親友いわく「ニュージーランドの靴流通センター」で
キャー安いー素敵ーなどと言いながら、ヒールつきの銀のサンダルを買った。
うちには冠婚葬祭用に黒のヒールがひとつあるだけだ。
足が大きいし、変に女くさくなって私には浮きそう、悪目立ちするぞと逃げてたけど
履いたら意外とふつうに似合うのに驚愕して、すごくうれしくなった。
このサンダルをわたしのドロシーの靴としよう。
そんでこれから日本に戻ってからも、こういう靴も履いてみよう。と思った。


ホテルはシティと呼ばれる繁華街にあった。オークランドの一極集中した都会の夏の夜。
照明のネオンの色も、すこし薄く透明感があってカナダみたいだ。
ラム肉をたべながら、日本からのお土産で漫画「聖☆おにいさん」全巻を渡すと、
同じキリスト教学校出身の彼女は大喜びした。
15歳のころ、私と彼女にとってキリストは『イエス』っていうキャラ扱いだった。
ロン毛の痩せた男性を見かけては「イエス度70%」と評価して笑ったりしていたし
ロン毛の男性が十字架のアクセサリーをつけていたりするともう大変だった。
じつにくだらない、こんなコトで涙が出るほど笑いころげていた友情の証として(?)。
そして、この他愛ないギャグ漫画はその夜、たいへん彼女の役に立つことになった。
翌日、世界一素朴で幸福な結婚式の終わったあとで聞いた話。


結婚前夜、家に帰って急にひどくナーバスになった彼女は、無性にひとりになりたくなって
旦那さんを自室に押し込め、ひとりで居間にねころがって「聖☆おにいさん」を読んで大笑いしてたそうだ。
それがどれだけ重要でしあわせな、充実した時間だったことか、って。
あの漫画を知る人は笑っちゃうだろうけど、その気持ち、とてもわかるなあと思った。
ほんの思いつきだったけど、買ってきてよかった。


奇しくもこの旅の途中で36歳になる私が、35歳の残り2日にして10年の肥大した自意識を全壊したところで
続きはまた明日。