ニュージーランド、オークランド 第二回/道ばたで愛を誓う

彼女はドライブしながら、明日の場所の下見する?といった。
結婚式場、いや教会だっけ。ナントカ公園の…
「ええっ教会なんてないよ、公園!私も旦那も無宗教なんだからイエスの前で誓う義務ないし」
六年間キリスト教の学校に通おうが、きっぱりと無宗教を名乗るのは当時から変わらぬ。
しかし公園って、じゃあなんか建物でもあるのだろうと思っていたら
「いや、ない。何もない。」
はたして結婚式当日、青空の下、わたしはその大きな公園のちょっとした階段の下で
ビデオカメラを構えていたのだった。


公園の一角に20人ほど礼装の人々が集まり、ちょっとした階段の下で花婿がギターを弾いて待っている。
そこに、ウエディングドレスの花嫁が階段を下りて登場する。
これはすごい…こんな結婚式初めてだ…ようするに日本でいえば、井の頭公園の階段のどこかで
おもむろに結婚式がはじまる、みたいなもんです。
立会人が愛の誓いの言葉を語り、指輪とキスを交わす。
なんと素敵な。晴れの日の美しい新夫婦。
公園の規模は巨大で、それにとても景観がよく、石畳の階段で執り行われる結婚式は
なんだか、古代ローマの「演劇」をみるような趣があった。
あるいみショウだ。その場で素朴にはじまるお芝居みたいな。
古い階段にウエディングドレス、非現実感がすごい。芝居かPVなんかの撮影かみたいだ。
でもこちらではよくこういう公園での結婚式があるらしくて、それにもまたおどろく。
これで、いいんだよなあ。結婚式って。
公園でのんびりしてる無関係なじいさんなんかが、微笑んで見ている。
カメラのうしろに犬が通りがかる。ジョギング中の女性が笑って迂回をする。
彼女は最高に晴れやかな笑顔で立っている。


この日は朝6時から、彼女の家に行ってずっと撮影していた。
長く知る親友のメークの様子を撮影するのは大変おもしろくて、どんどんきれいになっていくのに
メークさんに質問したりバカ話をしたりして、ちっともおすましにならないのがおかしくてしょうがなかった。
ブライダルの化粧は最大限の清楚さと、おしとやかさを表現するものだと以前あるメークさんに聞いたけど
結局のところ、そういったメークをしてさらに本人の表情による表現で顔は完成するのだった。
結婚式の彼女は、清楚でおしとやかプラスなにかにより、結果たいへんに晴れやかでチャーミングな花嫁となっていた。
涙もろい母さんや親友が泣いたりするのを、うれしい感動あふれる笑顔で抱きしめて
ものしずかに幸福をかみしめている旦那さんの横で、彼女はパカーンとおおきく笑っていた。
満塁ホームラン、という言葉が浮かんだ。意味も無く。
きょうの良き日はそんなふうに、爽快で嬉しくてたまらなかった。


こういう結婚ならしてもいいな。
わたしは初めてそう思った。
そしてそんな自分に驚愕する自分は、気がついたらもう居なかった。


つづく。