ニュージーランド、オークランド 第三回/新しく懐かしい友たち

私の滞在するホテルのフロントは皆インド人だった。
英語が訛っているうえに速くて、とても聞き取りづらかったのだけど
チェックインで長々と説明された事柄は、部屋に入ってわかった。かーなーり広い。
リザーブとミステイクは聞き取れたので、どうも予約ミスがあったらしい。
ベッドが四つ、部屋三つ。キッチンつき。一万円弱でこんな部屋に泊まっちゃうことになった。
「最終日は泊まりに行くー!キャー」というわけで、結婚式翌日に花嫁外泊が決まり
そしてこの夜、四人部屋には結局、ちょうど四人の女の子たちが収まった。
私と彼女、それから、ニュージーランドで二人の新しい友達に出会った。


わたしは今までの経験でよくわかっていることがある。
気が合う度合いは、はじめのインスピレーションがほぼ正しいってことだ。
たくさんの人々の中で、すぐにお互いセンサーが働くなにかがあって、これはなんだろう。
社会に出てからというもの、かなり多くの人に出会い続ける職業にある私はこのごろ、
「ばっちり気が合う」野生の勘を凌駕する勢いで、「気が合うところを見出していく」という
一期一会や、セッション的なコミュニケーションをとても多くしてきたと思う。
もちろん一生ものの確かな出会いだってあるけれど。
忘れていた「ばっちり気があう」インスピレーションが、くっきり思い出された。
その二人に会ったときに。


彼女たちは花嫁の親友で、日本人。オークランドに住んでいる。
結婚式でわたしは、ビデオメッセージを全員からもらうべく動き回っていた。
日本人の女性は他にもいたのに、わたしがあっという間に親しんだのは、そのふたりだった。
もう長いつきあいの親友みたいに、二次会ではすっかり三人で、団子みたいにくっついて一緒にいた。
あだ名で呼び合い、ほんとに長い付き合いの花嫁と四人になれば、
なんだ、これ同窓会か?と思うほどなつかしいような、確かな感覚。
きのうまでまるで知らなかった、別々のところで毎日を生きていた私と彼女たちが
こんなところでばったり出会って大笑いしてる。


お互いをさぐるようなコミュニケーションはすっとばして、話ができるこの懐かしいような気持ちを
わたしはとても気楽で快適に思った。そうだった、学生のころ、わたしのコミュニケーションのしかたは
こんなだった。気を使うなんてしなくても、気が合う同士が集まって、みんな勝手に楽しんでた。
社会に出ることは、つまり気が合わない人とも合わせていくことで、それはかならず強要される。
強要するのは誰?社会でもあるし、しかし最大の犯人は私自身だ。
そして自分で押さえつけて、それに反抗してた…。ご苦労さんです!


ひとりはニュージーランド人と結婚してここにいる。ひとりはワーホリ以降、ここにずっと住んでる。
花嫁もそうだけど、こういう人生もあるんだ、と思わずにいられない。
同時にそれはかけ離れた別世界の人々じゃなく、わたしと似たような女の子達の生活背景だってことが、
いまもわたしの心を強くする。とっても誇らしくて、わくわくする。
きっと彼女たちとは、どこでいつ出会っていても、かならず仲良くなれただろうと思う。
花嫁が変わらず、彼女らしくしっかりここで生きているのと同じで、彼女たちがどこで何をしていようと
出会う私たちは、きっと一緒に笑ってる。


花嫁と一緒に土産ものを買い、夜になると仕事帰りの二人が合流した。
ホテルでずーっと飽きもせずに話をして、撮影した結婚式のビデオをみんなで見て
キャー私、私!あっダーリン☆かっこいー!などとすばらしく撮影しがいのあるリアクションに
「撮影素材をチェックする」などという職業的意識は速攻うっちゃられた。
ただひたすら楽しかった。
そして二人は深夜、それぞれの家へ帰る。明日の朝には、わたしは飛行機に乗って東京に帰る。
だから二人とはここでお別れ。つぎにいつ会えるかわからないなんて、信じられない。
それでも、いつか私たちはまた、夏休み明けの新学期に会うみたいに
あっさり時間を飛び越えて「キャー久しぶりー!」といって笑うんだろうと思う。


彼女たちと最後に、なにを話したか忘れちゃった。とび上がって手を振った二人の姿だけ。
こんな出会いが待っているなんて、思いもよらなかった。
そうしてわたしは36歳になった。この旅は、神様からのプレゼントみたいだとおもった。


花嫁とふたりになって、彼女はわたしを「ビデオで撮影する」といいだした。
彼女にビデオカメラを向けられたわたしは、みんな、すてき、しっかり生きてる、えらい。
と片言みたいに話しはじめた。
みんなすごく、突き抜けてる感じがする。まっさらの青空、みたいな。
日本てじめじめしてて、日本人もあいまい、気候のせいかな。わたしも湿気にやられてたかも。
カビ?生えてないと思うけど…いやカビてたのかな…もう忘れちゃったよ!
みんなと話したり、街を歩いてる人をみても、うわぁ堂々と生きてる感じって、胸がすっとした。
「みんな、苦労してるからね〜。」彼女はてれくさそうに、小さくなりながら言った。


唐突にねむい、といって寝室に向かった彼女をみて、すこし可笑しくなった。
みんなで旅行しても、唐突にひとりで寝ちゃうんだよなあ。絶対起きないの。
苦労しながらのびのび育ったってことが、顔だけじゃなくて身体にも思いっきりでているよ〜
と思いながら、ベランダに出てたばこをすった。街はまだ少しだけ明るい。
旅の最後、真夏の夜。たいへん美味しいたばこだった。