ニュージーランド、オークランド 最終回/さよならなんか言わせない

眠いねむいと言いながら、親友のトヨタカーで空港へ向かう。
私たちはまだ話している。
曲がる道路のように話はかたちを変え、いまの生活の、人生の悩みなどになる。
もうすぐ、あと1時間もすればこの旅は終わるのだ。そしてそれぞれの生活へ戻る。
私たちは、とても穏やかに暖かに話している。


空港へ着いて、わたしが搭乗手続きに手間取っているあいだに
彼女は行ったり来たりして、ふとみると何か書いていた。
わたしは入国審査の紙ですら、彼女に書いてもらったものを使ったので
(彼女はとても面倒見がいいのだ。)
出国審査の紙を書いてくれてるのかな、なんて思ってたらそれだけでなかった。


出発ロビーでふたりでコーヒーを飲んだ。
お土産は、もう大丈夫?
うん大丈夫。いろいろ、ありがとね。
すっごい楽しかった。まじで。こんなに笑ったの久しぶりだよ。
…わたしも〜!
楽しかったね〜!キャー!!!


じつに何を話してたか忘れたけれど、時間のぎりぎりまで私たちはこの旅の笑い話をして
しっかり抱き合って、笑顔で手を振った。
ポケットの中にはさっき、親友が書いていたちいさなカードが入っている。
飛行機に乗ってから読んでね、というから、わたしは成田に着くまでがまんした。
長い長い11時間の空路、ぎゅうぎゅうにつまったエコノミーの席の一角で
わたしは、新しく懐かしい友人にもらったチョコクッキーをむしゃむしゃ食べながら
とってもゆかいな気分だった。
わたしこれから日本にもどる。わたしはニュージーランドのわたしを東京に解放する。
こわい?こわくない。な〜んにも!!むしろ、楽しい〜♪


そうして、会いたい人がいっぱい住んでいる日本にもどる。
成田空港のロビーで、ポケットからちいさなカードを出して読んだ。
はっきりくっきりした、まるで変わらない彼女の文字でこう書いてあった。
「35歳から15歳に戻っちゃったよ!」
あはっ、と思わず一人で笑った。
まるっきり同じこと思ってたんだな。わたしたち。


会いたいと思えば、いつでも会える。
ウォン・カーウァイの「ブエノスアイレス」の最後の台詞に、心の中で勝手に続きをつけた。
彼女や、15歳のわたしや、まだ知らない私自身に。