金沢にて〜夏の冒険、海と山

ひとり旅で楽しいのは、地元の人やすれ違う人と気ままにお話できること。
わたしは話しかけられやすい気質で、きのうも観光客の女性たちに道をきかれて
道ばたで、どこから来たんですか〜なんて少しお話した。
わたしはこれから近江町市場へ晩御飯を食べにいくところ、と言うと彼女たちは
今さっきそっちのほうのネールサロンに行ってきたっていう。おお、それはいいねえ!と
場所をきいてわたしも行くことにした。
旅先ネールサロンは地元情報の聞き込みにちょうどよい。手と足、二人がかりでやってもらいながら
どこ観光したとか何食べたなどと話しながら、明日は日本海を見たいんだけど、とりあえず能登半島
電車だとどう行くと近いの?…色々教えてもらった。サロンのお姉さんたちありがとう!
というわけで、きょうは夏の大冒険Day!ぴかぴかのつめで日本海を走るのだ!


電車で羽咋駅へむかう。
駅に着いたらタクシーかバスで千里浜へ、バスなら気多大社っていう有名な古い神社があるから、
そこで降りるとちょ〜日本海だときいた。海沿いの古い神社!?それすごい魅力。
ということで駅に着いてみると、バスが一時間に一本しかない…。
タクシーがさあ!とばかりにドアを開いて待っているけど、だめだ冒険の血がさわいでうきうきしている!
あまりにのどかな風景についつい、あるきはじめてしまいました。
建物が低くてすくない、空間がひろい。海沿いの町特有の、暑い日ののんびり感が漂っている。
あけっぴろげの商店街には、なぜかフラメンコが流れている。日陰のベンチに老人たちが座ってみている。
しばらく行ってもなかなか気多大社の案内がでてこない。遠いのかな…と思いながら進んでいくと
海の近い空気が流れてきた。潮のにおい、建物のぽっかりない空の方角。
あっちだ、と思って向かっていくと、千里浜ドライブウェイの標識がでてきた。
ほとんど動物的勘でわき道に入っていくと、突然その先に海が現れた。こんな風に!

気がつくと、道の途中からだんだん砂道になってて足は砂まみれ。人っ子ひとりいない海辺。すっごく気持ちいい!
空と海だけってすごいなあ。
わたしの出くわした海岸のずっと手前に、砂浜を車で走れるドライブウェイがみえる。
車がテストコースのように走っては折り返していく、何台もの車が停まっている。
ここはドライブウェイの先だから誰もいないんだ。こんなに美しい海をひとりじめなんてすごく贅沢。
そうしてたばこをすったり砂遊びをしたり、水につかったりして、うつくしい日本海を堪能した。
裸足のつめのきれいなのをみて、ああそうだと思い出して、海沿いの神社へ向かおうと大通りにでると
すぐにタクシーがきた。ほとんど車が通らないのに、まるでお迎えみたいと面白く思いながら乗り、
その古い海沿いの神社でおまいりした。本当に海ぞいで、ちょ〜日本海だった!


金沢駅へもどり、金沢大学角間キャンパス行きのバスに乗って終点まで。
OGでも大学生でもないわたしがなぜ金沢大学へまっしぐらかというと、会社の親しい子がここのOBで
大学に潜入してきて、というのにうきうきしてしまって、今日の大冒険Day・B面は金沢大学工学部!
バスの中で潜入員として、だれかに怪しまれて訊かれたら何て言うかをよくよく考える。
院生ですとか(無理ある)助教授の妻ですとか(これも無理ある)へたに大学生風な格好をしてきたから
狙いがぶれるな…。取材です、が一番堂々といえそうだけど、どこの局?何かあったんですか?とか言われたら
しどろもどろになりそう。よって正直に事情を話そう、と思い定めたころ、バスはどんどん山道を登りはじめた。
あれ、なんかすごい山々が広がってきたぞ…?
さっきまで見慣れた金沢の平地だったのに、あっという間に山中になる。山にみとれていると
目の前に「ようこそ金沢大学へ」の文字が現れた。あら着いたみたい…?あわてて降りる。


正門とかないんだな、いきなり校舎がいっぱい建っている。工学部の屋上、ときいていたものの
案内をみると理学部もあるらしく、どれが工学部なのかわからなくててんぱる。
夏休み中の大学は、ちょうど博士課程の試験がやっていて、まばらに人はいるけどすっごく静かだ。
時折、のったりと学生さんたちが通るのがみえる。校内では、機械室みたいな部屋がいくつもアクティブになってて
何かしら作業をしているらしいとわかる。なんだろうあの大きな機械、すごい音…?
ドアの開いた部屋をのぞくと、並んだ机の上には色々な工具や機械が雑多にのっている。
思っていたよりも多く学生がきていて、何かしているみたいだった。


わたしも大学生のころ、夏休みはちょくちょく学校に来てたけれど、なにしろ夏の課題作品の撮影や現像があるからで
きっと普通に比べて特殊な状況なんだろうと思ってた。
でもここにいる彼らもたぶん似たようなもので、そうやって大学に来てなにか作っているんだろうなと思った。
なんかとても、なつかしい感じ…。何してたっけ、たくさん時間のあるなかで、なんだか校舎のかたすみで
寄り集まった仲間と話をして、たらたらしながら色々な出来事が(きっと今思うと他愛のないことが)起きたり
なんでって思うくらいビリヤードしたり誰かの家に行ったり、学食や喫茶店でずっと過ごしたりして…
ひとつの作品をつくるのに半年以上もかかって、なにをどうやってつくるかっていうだけでふた月も悩んだりする。
むだな時間がほしかった、ってそのOBの子は言ったけれど、わたしも同じようなことでわざわざ大学へ行った。
専門学校で就職しづらいのもあったけど、もう少し時間がほしい、とおもった。
むだに哲学やフランス語を勉強したり、映画のことをもっと知りたかった。あそぶことはあまり考えてなかったけれど
結果、そんな時間も自然にいっぱいついてきた。なんか忘れちゃったけど、楽しかったな。


そんなことを思いだしながら、工学部となっている棟の屋上へ出るべく、いくつもの棟をめぐった。
しかしまあ、きれいなエレベーターつきの大きな校舎で、部外者が屋上にでるのはたやすくなかった。
ううむ、ここも7階どまりだ。あとはどこがある?となんとなく別棟のほうへ行ってみると、そちらの校舎は古かった。
ここは野放図な雰囲気がして、うちの映画棟にもよく似たやさぐれ具合、よごれ感…と期待たっぷりで階段をのぼると
はたしてようやく、屋上に出られたのでした!

思いがけず山々のパノラマ。空がかなりひろく見晴らしがいい。夜はきれいだろうな。
屋上は立ち入り禁止だけどちいさい腰掛場所があり、その足元にはたばこの吸殻がつまった灰皿が置いてあった。
あはっどこも同じだ、いまも昔も。
ゆかいな気分でわたしもたばこを一本吸い、こっそり灰皿に置いてきた。


帰りにバス停で、おじいさんに「学生さん?どこの」とにこにこで訊かれて、おもわず「あ、はい…」と言ってしまった。
しまった、どうしようと内心あせっていると「暑いのに大変だねえ。」
ばれなかった。(?)


明日は帰る前に、おもいでの川を探訪です。