オールジャパン・サバイバル

わたしの住む阿佐ヶ谷は、堅実で生活しやすい住宅街だけれど
地震の翌日から毎朝、開店前のスーパーに行列ができている。
阿佐ヶ谷も銀座も同じように、コンビニからごっそりカップ麺が消えている。
後輩の一人暮らしの男の子が、かれは普段からコンビニに依存した食生活だから
食べ物にとても困るっていう。
カップ麺もないし、お弁当もないでしょ。あるのはスープだけなの。
私は言う、とりあえずごはんを炊きなよ、あとはどうにでもなるから。


きのう仕事が思いがけず早く終わり、その突如行列が始まったスーパーに寄ったら
お米が品切れで入荷めどが立たない、という張り紙をみて戦慄した。
東北の米どころ一帯があのような状態になり、これから米はどうなるのか
誰も話題にしていないようでいて、主婦たちはみんなわかっていたのだと知りました。
うちにはまだ米の蓄えはあるけれど、慌ててパスタを買った。パスタも残り少なかった。


被災地付近のコンビニは、すでに略奪状態だとNHKで報道していました。
すこし前まで、行列にきちんと並ぶ人々の姿が流れていて
海外メディアでは、日本人の冷静さと生真面目な国民性を評価していたけれど
映像に映らないところでこういったことが、もうとっくに起きていた。
現地ではそれどころではないのだ。
被災者の精神が、生きるか死ぬかのサバイバルに勝ち残ることへと形を変えつつある
専門家がそのように言っていた。
報道もそういった、逼迫した生活状況をどんどん伝えている。


わたしのマンションは電気コンロです。
炊飯器も、湯沸かし器も冷蔵庫も電気がいる。
電気が止まれば、料理は困難になる。そういう家は多いでしょう。
コンビニでは、カセットコンロの燃料は売り切れている。
今ある燃料がなくなったら、ろうそくでどれだけ料理できるかと考える。
煮物は無理だから当然、生食と焼き物になる。牛肉は直接あぶればいけるし、
にんにくとかピーマン、パプリカみたいな薄くて小ぶりな野菜なら、か細い炎でも焼ける。
あるいは、ろうそくをぐるりとコンロの形に並べて、いっせいに灯せば
お湯をわかすことができるだろうか、とか。
庭で焚き木をするのは、一人暮らしで継続性を思うと現実的ではない。
それに、東京ではとても難しい。


熱を火で得ることは、今こんなときに誰もいわないけれどCO2を増やすことです。
電気のある生活をCO2を出さずに成立させるために、日本には原子力発電が必要だった。
だってそうでなければ、火を燃やして電気をつくるしかなくて
そして、それら燃料はもう採取できる量に限りがある。
いまと未来の豊かな暮らしをかなえるための原発
どうして東京電力を、原発の関係者を責められる?
いらだちと怒号の飛び交う記者会見で、東京電力の人たちがちいさく憔悴しているのをみて
かわいそうでしかたなく、またあなたたちメディアはその電気を使いながら
撮影したり取材して発行したり、編集して映像をつくるのではないの、と
同業者として思わずにいられません。
停電の不満や被曝への不安をいち企業へぶつけたくなる暴力は、やがてこの不便が続くほど拡大するでしょう。
でもそれは、わたしには、弱いものいじめにしか見えない。


原子力は恐ろしい。ほんとうに、毎日状況の不安定ななかでわたしは
あのすべてが爆破したら、東京ももうだめだろうと漫然と思いながら、覚悟をできないで怖がり続けている。
けれど、日本には広島と長崎の被爆があり、そのトラウマと激しい抵抗感がありながらも受け入れ、
狭い国土のなかで、それでも幾つも建てる必要のあった。
原発反対デモがいくら席巻しようと、他に選択肢のなかった。
わたしたちはその国に住んで、食べ、かんがえ、楽しみ、働き、生きてきた。
原子力発電がなければとっくに電気は足りていなくて、たった5日前までの暮らしは出来ていなかったことを
その長い歴史を思う。大都市東京、24時間明るい街、便利で先端の暮らし。
わたしが生まれる前にすでに建っていた発電所の惨状をみて、ただもう何もかもがしかたないとしか言えない。


豊かな生活を手放したくないから停電に文句を言ったり、むやみに東京電力原子力に反撥したり
自分さえよければいい、自分には関係ないと思い生活レベルを変えないひと
(信じられないことに、本当に今東京にそういう人はいる!)
石原都知事はかれらに向けて、あの衝撃発言「津波でエゴを洗い流せ」と言ったのならわたしは納得だし
大ブーイングをものともしないいさぎよさをを、尊敬する。


日本の崩壊を東京電力自衛隊の人たちが、決死でくい止めるための知恵と力を注ぎつくしているのを
いまはただ祈りながら見守り、応援するしかない。
そして、これからどうやって生きていくか、エゴでなく手をつなぎ、知恵を共有するサバイバルを
怒りと暴力に使うエネルギーを、この状況下で心豊かに暮らしていくためにかんがえるエネルギーに転換して
そうやって今は、オールジャパンがサバイバルしていくしかないと思うのです。
ラジオでは頻繁に、ジョン・レノンのイマジンが流れています。
−想像してごらん、すべての人々が、今日のために生きていると
いまはただ日々を、自分の思う正しさをもって、誠実に生きていくしか、わたしには思いつきません。