日常のグロテスク、そして「サウダーヂ」

また…仲間はずれとシカトが始まる。この人いったいいつまで繰り返すんだろう。
いつまで、私を憎む気なんだろう?なぜ執拗に憎まれているんだろう?
わたしが会社を辞めたら、別のターゲットを見つけて攻撃するんだろうか。そういう人がいる。
喫煙所で居合わす知らない会社の人、二人の男性はジトッとした目で私をみる。
そのうちの一人は以前に声をかけられ、しつこく誘われてちょっと迷惑ですと明確に(失礼なく)
お断りしたけれどどんどん執着とじめりが増している。
もう一人の男性は、暗い目でじいっと見つづける、怖いから知らん振りしてる、いつも怒ったかのように激高して出て行く。
じつは外にもいる。会社の周辺でよくすれ違う男性で、あまりに毎度ジトッと凝視し続けるから顔を覚えてしまった。
執拗に見られる恐怖で顔を伏せるくせがついた。その人は空洞の目でにやにや笑っている。
そして社内にじめっとした目が増えた。過去にこの人も「あの目」だとわかって以来、ひどく警戒してしまう。
こわがりすぎだと思う。でもみな共通しているのは、私を見る目つきだ。どうしてあんな目でわたしをみる。
卑劣なファシストみたいな、ひとを服従させようとしているような、そういう歪んだ(空虚でなにもない)目。
それは、わたしが怖がっているからだよと以前親友に言われたことがある。その反応に喜んでるのだと。より怖い。
どこにいっても、前の会社にも、そういう人がいて困ったことがある。でもたった一人、いまほど多くない。
接する機会があれば、かれらの執着をなくせないかと努力したけれど、それはうまくいっても一過性の瞬間でしかなく
ああ、なるほどかれらの現実のすべてがはりぼての、虚構のお芝居なんだと知ったとき、深い恐怖を感じた。
鳥肌の立つほどの恐怖。わたしの理解できないもの。空虚さ。しかし、この世界にたしかにいる隣人。
それ以来、わたしはかれらをいっさい信頼できないでいる。
逃げ回る、はたから見たらわたしのほうがきっと、狂っていると思われる。
じめじめ、ベタベタした、なにか執拗な暗い目が確実に増えているのだ。多数決じゃ押しつぶされる、だとしても。
闘うしかないのだ。
わたしの中の暴力…浮き上がろうとする恐怖と怒りと嫌悪を、わたしの中の武器…笑いやよろこびややさしさ軽さで
片っ端から、ぶち壊していくしかない。
そして、わたしがもっと、暴力を永遠に追放することができれば
きっと、きっときっと、かれらのじめってべたついたアメーバのようなものが、からっと乾く魔法をかけられるかもしれない。
いまのこのアメーバの総攻撃は、わたしのなかの暴力への贖罪だと、そのように考えると、しかたなく思う。
罪をあがなうのは教会じゃない、ストリートだ、とスコセッシがミーンストリートで言い放ったように
日常のなかで贖罪の終わりと魔法のはじまりをめざして闘うしかないのだ。
適当にうわべだけでも従うふりもできない、わたしのような者は。


けれど、本当はみんなそうじゃなかったの?


長々と書いたのはわたしの見た身近なグロテスク。ほうっておくと勢力を増してファシズムになるかもしれず
迫害される側だけでなくする側も虚しさにやりきれぬ、とても生き辛い社会になりえる片鱗のサンプルだ。
さあ、目を覚ませ、そしてがんじがらめの心身を開放せよ。自由になれ、自由とはなにか。
自分の思う正しさをゆがめないこと、だけだ。
それをめぐって、からっと風の吹くようないさぎよさで、迷いなくグロテスクな社会を突っ走る
「サウダーヂ」はそういう映画だった。
わたしの友人たちがつくった映画で、制作中のときから様子をきいていたけれども、このあいだ初めて見た。
とてもしっかりと、確固たる目をもって3時間弱、突っ走っているので、痛快で、すごくうれしかった。
映画にはヒップホップがでてくる。Disる映画はただしくDisらなきゃいけない。ずれると悪意ある暴力になってしまうから。
そして「サウダーヂ」はとても正しくできていた。Disることは訴える、声を上げる、たたかうことだと伝わってくる強さ。
どうしようもない出来事、べたつくアメーバがたくさんでてくる、善悪の価値基準もなく失われ揺らぎ、
世界の不確かさがはっきりわかる。誰がなにが正しいって明示はしないけれど、ラストシーンは
「これが自由だ」と、ばーん!と見せられた感じがして、わぁやったー!と思って泣きそうになった。
ほんとうに、見たらとても元気になった。
映画館は満員御礼、大盛況で、これだけこの映画をよろこぶ人々が多くいるのなら
虚栄に満ちた銀座くんだりでアメーバモンスターに囲まれたところで、大丈夫だれか助けてくれるんじゃないかと
つかモンスターがこの映画をみれば、響けば、むなしさから抜け出せるかもしれない希望をもって
きょうもわたしは「サウダーヂ」Tシャツを着る。


「サウダーヂ」公式サイト
http://www.saudade-movie.com/